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歌のしゃくりとは|入れ方のコツと「しゃくり癖」の直し方

しゃくりとは、狙った音より少し低い音から入り、目的の音まで上げて着地するテクニック。意図して使えば表現になりますが、無意識に全部の音についていると音程が下から入る癖になります。入れ方のコツと、しゃくり癖の見分け方・直し方の両面から解説します。

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歌のしゃくりとは|入れ方のコツと「しゃくり癖」の直し方

しゃくりとは、狙った音より少し低い音から入り、目的の音までなめらかに上げて着地する、音の「入り方」の装飾テクニックです。ここぞという場所で意図して使えば表現になりますが、無意識に全部の音の頭についてしまうと、それは装飾ではなく「音程が下から入る癖」=音程が甘い症状になります。

この記事では、しゃくりの入れ方(表現として使う側)と、しゃくり癖の見分け方・直し方(症状として直す側)の両方を解説します。「しゃくりが多いと言われる」「しゃくりすぎる気がする」という人は、後半の見分け方から読んでも構いません。

しゃくりとは|狙った音より低い音から入って上げるテクニック

しゃくりとは、出したい音の半音〜1音ほど低いところから声を出しはじめ、そのまま音を切らずに目的の音まで滑らせて着地させる歌い方です。「ド」を出したいときに、「シ」あたりからスタートしてスッと「ド」まで持ち上げるイメージです。音と音がつながって聞こえるので、フレーズが柔らかくなり、歌に動きが出ます。

こぶし・フォールとの違い

似た装飾テクニックと並べると、動きの方向で区別できます。

テクニック音の動き使う場所
しゃくり目的の音より低い音から入って上げる音の入り口(頭)
こぶし目的の音から一瞬だけ上に動かして戻す音の途中
フォール目的の音から下に落として消す音の終わり(語尾)

しゃくりは「音の入り方」、こぶしは「音の途中の揺らし方」、フォールは「音の抜き方」です。しゃくりとこぶしは音の動く方向が逆なので、混同しないでおきましょう。

しゃくりの入れ方|どの音に、どれくらい入れるか

しゃくりは、狙った音の少し下から「1回で」上げ切るのがコツです。ゆっくりズルズル上げるとただの音程外れに聞こえるので、上げる動きは一瞬で終わらせます。

練習手順(1回5分・毎日)

  1. 母音を2回に分けて練習する(30秒×3セット) 出したい音を決め、「かーあ」のように母音を2つ重ねて発声します。1回目の「か」を目的の音より1音低く、2回目の「あ」でピタッと目的の音に着地させます。音を切らずにつなげるのがポイントです。
  2. 上げる速さを一瞬にする(30秒×3セット) 1で慣れたら、低い音にいる時間をどんどん短くします。最終的に「低い音を経由した」とわかる程度の一瞬だけ、目的の音の直前に置きます。
  3. 曲のフレーズの頭で1回だけ試す(1曲・3回) Aメロの1つのフレーズを選び、その最初の1音にだけしゃくりを入れて歌ってみます。他の音はまっすぐ入れます。

入れる位置と回数の目安

しゃくりは「全部の音に入れる装飾」ではありません。効くのは次のような場所です。

  • フレーズの歌い出しの1音目(歌に入る合図として)
  • サビなど、感情を強く乗せたい1フレーズの頭
  • 息を吸った直後の入り(自然につながりやすい)

目安として、1曲でしゃくりを意識して入れるのは5〜10か所程度で十分です。それ以上入れると、後述する「しゃくり癖」と区別がつかなくなります。

NG例

  • ズルズル長く上げる:低い音に長く留まると、しゃくりではなく「音程を探している」ように聞こえます。
  • 高音を出すためにしゃくる:出しにくい高音を下から勢いで持ち上げようとすると喉に力が入り、高音で喉が締まる張り上げの原因になります。しゃくりは表現であって、高音を出す道具ではありません。
  • 全部の音の頭に入れる:これは装飾ではなく癖です。次章で見分け方を解説します。

しゃくり癖の見分け方|「意図的」と「無意識」を分ける

ここからが本題です。しゃくりは、意図して選んだ場所に入っているなら表現、無意識に全部についているなら症状です。この2つは音の動きとしては同じなので、「入れているつもり」なのか「入ってしまっている」のかを、自分の耳で切り分ける必要があります。

3つのセルフチェック

自分の歌を1曲まるごと録音して、次の3点を聴き返してください。

  1. フレーズの1音目が、ほぼ全部下から入っていないか Aメロ・Bメロ・サビと、どのフレーズの入りも「ふわっ」と下から上がってきていたら、それは選んで入れているのではなく、癖として全部についている状態です。
  2. フレーズの途中の音まで下から入っていないか 意図的なしゃくりは、ふつうフレーズの頭に置きます。歌詞の1文字1文字、音が変わるたびに毎回下から入っているなら、音程を一発で当てられていないサインです。
  3. しゃくりを「禁止」して同じ曲が歌えるか これが一番はっきりします。同じ曲を「しゃくりは1回も入れない、全部まっすぐ入る」と決めて歌ってみてください。まっすぐ入れようとすると音がぶら下がる・声が出にくい・そもそも入り方がわからないなら、しゃくりは表現ではなく、音程を合わせるための松葉杖になっています。

「多い」と言われる歌手も、実は選んで入れている

しゃくりが特徴として語られる歌手もいます。たとえばあいみょんの歌い方は、喉を開いた太い声と節回しのしゃくりが持ち味としてよく挙げられます。ただし、こうした歌唱を聴き込むとわかるのは、しゃくりが全部の音に均等についているわけではないということです。まっすぐ入る音がしっかりあるからこそ、しゃくった音が「そこだけ違う」表情として聴こえます。全部にかかっていたら、それはもう特徴ではなくノイズになります。

しゃくり癖の直し方|一発で音を当てる練習

しゃくり癖を直す練習の核心は、「下から探して合わせる」のをやめて、「最初の一発で当てる」に切り替えることです。

練習1|スタッカートで一発当て(毎日3分)

短く切った声で、音を点で当てる練習です。

  1. 出しやすい高さの音を1つ決めます(ピアノアプリやチューナーアプリで鳴らして耳に入れておく)。
  2. 「ハッ、ハッ、ハッ」と、1音ずつ短く切って発声します。8回を1セット、3セット。
  3. 1回ごとに音を狙い直すのがポイントです。狙った音に「いきなり」乗れているかだけを聴きます。
  4. 慣れたら、音を1つずつ上げ下げしながら同じことをやります。

コツは、声を出す前にその音を頭の中で1回鳴らしてから出すこと。息は一定に流し、唇は閉じずに開けたままにします。

練習2|「しゃくり禁止」で1曲通す(1曲・週3回)

普段歌っている曲を1曲選び、しゃくりを完全に禁止して歌います。フレーズの頭も途中も、全部まっすぐ入ります。最初は歌いにくく、色気のない歌に感じるはずですが、それでいいのです。「まっすぐ入れる能力」を先に取り戻してから、意図的なしゃくりを足し直します。

録音して聴き返し、まっすぐ入れられていない箇所に印をつけます。その箇所こそ、あなたが音程を確信できていない音です。

練習3|1フレーズだけ足し直す(1曲・3回)

練習2でまっすぐ歌えるようになったら、1曲で3〜5か所だけ、意図してしゃくりを戻します。「ここは入れる」「ここは入れない」を自分で決められる状態になれば、しゃくりは癖から表現に変わっています。

NG例

  • とにかく強く発声して直そうとする:力で押さえ込むと喉が締まるだけで、音程の精度は上がりません。
  • 音源を聴かずに練習する:狙う音が頭にない状態で何回歌っても、下から探す動きは消えません。必ず音を鳴らしてから声を出します。

歌が上手い人は“隠れしゃくり”を使っている

上手い人のしゃくりが「わざとらしくない」のは、上げる動きが一瞬で終わっていて、しかも入れる場所を絞っているからです。自分のしゃくりと聴き比べて、上げるスピードと入れる頻度がどれくらい違うかに注目してみてください。

なぜしゃくり癖がつくのか|音を確信して出せていない

しゃくり癖の正体は、狙う音のイメージが曖昧なまま声を出していることです。

出したい音がはっきり頭の中で鳴っていないと、人はとりあえず低めの音から出して、聴きながら上げて合わせにいきます。これは音程を合わせる方法としては合理的なので、脳が「下から合わせる方が楽で確実だ」と学習してしまいます。その結果、一発で音を当てる回路がどんどん使われなくなり、全部の音が下から入るようになります。

つまり、しゃくり癖は「表現の癖」ではなく、音程が甘い状態の一形態です。だから直す方向も、装飾のテクニックを磨くことではなく、「狙った音を、狙ったとおりに一発で出す」精度そのものを上げることになります。同じ理由で、カラオケで音程が合わないと感じている人が録音を聴き返すと、外れているというより「全部の音が下から入って遅れている」だけ、というケースは珍しくありません。

もうひとつの原因は、高音を勢いで持ち上げようとしているケースです。地声で押し上げる力に頼っていると、音を一発で置きにいけず、下から助走をつける動きになります。この場合はしゃくりを直す前に、高音の出し方そのものを見直す必要があります。

しゃくりは自分では聞き分けられない

ここまで読んで、こう思ったかもしれません——「で、自分のしゃくりは意図的なのか、癖なのか?」

これは、歌っている本人には判定できません。 歌っている最中の自分の声は、骨伝導が混ざって外から聴こえる声とは別物ですし、そもそも「入れているつもり」と「入ってしまっている」は、本人の主観では区別がつかないからです。実際、しゃくり癖が強い人ほど「自分は普通にまっすぐ歌っている」と思っています。

判定する方法はひとつだけで、録音して、他人の歌として聴き返すことです。その上で、この記事のセルフチェック3点(全フレーズの頭が下から入っていないか/途中の音まで下から入っていないか/しゃくり禁止で歌えるか)を当てはめます。

ただ、録音を聴いても「なんとなく下から入っている気がする」で止まってしまう人が多いのも事実です。音程が実際にどれだけ下から入り、どのタイミングで狙いの音に着地しているかは、耳だけで測るには細かすぎます。ボイトレアプリ「ボイとれ!」には、歌った声を録音して声のクセを症状として切り分ける診断があり、音程が下から入るタイプなのか、高音で張り上げるタイプなのかといった自分の傾向を、主観ではなく記録として確認できます。自分の声のクセを4タイプで診断するところから始めると、しゃくりを「直すべき症状」として扱うのか、「足していい表現」として扱うのか、判断がつきます。

まとめ|しゃくりは、選べて初めて表現になる

  • しゃくりは、狙った音より低い音から入って目的の音まで上げる、音の入り方の装飾。こぶし(上に動かして戻す)とは動きの方向が逆。
  • 意図的に使うなら、フレーズの頭に、1曲5〜10か所程度。上げる動きは一瞬で終わらせる。
  • 全部の音の頭に無意識についているなら、それは装飾ではなく音程が下から入る癖。スタッカートで一発当てる練習と、「しゃくり禁止」で1曲通す練習で直す。
  • 癖の根っこは、狙う音のイメージが曖昧なまま声を出していること。表現の練習ではなく、音程の精度の問題として扱う。
  • 自分のしゃくりが意図的か癖かは、自分では聞き分けられない。録音して聴き返すところからしか始まらない。

しゃくりを「入れない」ことも選べるようになったとき、入れたしゃくりが初めて表現になります。まずは1曲、しゃくり禁止で歌って録音してみてください。表現力を意識して足していくのは、そのあとで十分間に合います。

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