歌の音程が取れない原因は2つだけ|「聴こえていない」のか「声が届かない」のかを切り分ける
音程が取れないのは「耳(入力)」と「声(出力)」のどちらが原因かで練習が180度変わります。3分でできる自己テストでタイプを判定し、それぞれに効く練習メニューを具体的な回数・時間つきで紹介します。

歌の音程が取れない原因は、大きく2つしかありません。正しい音が「聴き取れていない」(入力の問題)か、音は聴こえているのに「声がその高さに届かない・当たらない」(出力の問題)か、そのどちらかです。
そして、この2つは練習方法がまったく違います。聴き取れていない人がいくら発声練習をしても音程は良くなりませんし、聴こえているのに声が当たらない人がいくら音感トレーニングをしても、やはり改善しません。「音痴を直す方法」を色々試したのに効果がなかった人の多くは、自分と違うタイプ向けの練習をしていただけです。
この記事では、自分がどちらのタイプかを3分で判定する方法と、タイプ別の練習メニューを回数・時間つきで紹介します。
そもそも「音程が取れない」とは何が起きているのか
歌うという行為は、ざっくり言えば「① 正しい音を耳で聴き取る → ② その高さを頭の中で目標としてイメージする → ③ 声帯をその高さに合わせて動かす → ④ 出た自分の声を聴いて、ズレていたら修正する」というループです。
音程が取れないというのは、このループのどこかが切れている状態です。そして切れる場所は、実質的に入口(①②)か出口(③)のどちらかに集約されます。
- タイプA:入力の問題(音の高低を正しく判別できていない) → 自分では合っているつもりで歌っているのに、録音を聴くとズレている。ズレていることに自分で気づけない。
- タイプB:出力の問題(音は分かっているのに声がそこに行かない) → 「今の音、外したな」と自分で分かる。分かるのに直せない。狙った音の下から探すように入ってしまう。
「自分では合っていると思ったのにズレていた」のか、「ズレているのは分かるが直せない」のか。この違いが、そのまま処方箋の違いになります。
なお、この記事は「音程が取れない」という現象そのものの切り分けに絞っています。「自分は音痴だ」という自己認識から総合的に立て直したい人は音痴の治し方を、カラオケという場面に限って音程が合わない人はカラオケで音程が合わない原因と直し方を先に読むと、話がつながります。
3分でできる、タイプ判定テスト
準備するのは、スマホのピアノアプリ(無料のもので十分)と、録音アプリだけです。
手順
- 録音を開始する。
- ピアノアプリで単音を1つ鳴らす(男性なら「ド」=C3あたり、女性なら1オクターブ上のC4あたり)。
- その音を**「ラー」で真似して声に出す**。5秒ほど伸ばす。
- 同じことを、5〜6音(ド・レ・ミ・ソ・ラなど)で繰り返す。1音ずつ、ピアノ→自分の声、の順で。
- 録音を止めて、最初から聴き返す。
判定
聴き返したときの自分の反応で、タイプが分かれます。
| 聴き返したときの感覚 | タイプ | 何が起きているか |
|---|---|---|
| 「あれ、ズレてる? 歌っているときは合っていると思ったのに」 | A(入力) | 正しい音と自分の声の高低差を、耳が判別できていない |
| 「やっぱりズレてる。歌っているときも外したのは分かっていた」 | B(出力) | 目標音は分かっているが、声帯をその高さに置けていない |
| 合っている音もあるが、高い音だけ下にぶら下がる | B寄り(+音域の問題) | 後述の「音域の外」の可能性が高い |
判断に迷ったら、もう一段はっきりさせる方法があります。ピアノの音を鳴らしっぱなしにして、その上に自分の声を重ねてみてください。 声とピアノがぴったり重なると、2つの音が溶け合って「うねり」が消え、1つの音のように聞こえます。ズレていると、ワンワンと波打つような濁りが出ます。
- この「うねり」の有無が自分で聴き分けられない → タイプA
- うねっているのは分かる。でも声をどっちに動かせば消えるか分からない/動かせない → タイプB
タイプA(聴き取れていない)の練習:耳を先に作る
タイプAの人が最初にやるべきなのは、発声練習ではなく**「音の高低を判別できる耳」を作ること**です。順序を逆にすると遠回りになります。
大人になってから絶対音感(音を聴いただけで音名が分かる能力)を身につけるのは現実的ではありませんが、相対音感(基準の音と比べて高いか低いか、どのくらい離れているかが分かる感覚)は大人でも鍛えられます。歌に必要なのは後者です。
ステップ1:ユニゾン(同じ音を重ねる)— 1日5分×2週間
- ピアノアプリで1音を鳴らしっぱなしにする。
- その音に自分の声を「ウー」で重ねる。声を出したまま、わざと少しだけ声を上げ下げして、「うねりが消える一点」を探す。
- うねりが消えたら、そのまま10秒キープする。
- これを1音につき3回、5音分(ド・レ・ミ・ファ・ソ)。合計約5分。
ポイントは、一発で当てようとしないことです。この段階の目的は「当てる」ことではなく、**「合っているときの感覚(うねりが消える感じ)を耳に覚えさせる」**ことです。探しながらでいいので、必ず「消えた瞬間」を毎回体験してください。
ステップ2:2音の高低を当てる — 1日3分
- ピアノアプリで2つの音を続けて鳴らす(例:ド→ソ)。
- 声に出す前に、口で「今のは上がった/下がった」と言う。
- だんだん幅を狭くする(ド→ミ、ド→レ、ド→ド♯)。
- 20問を目安に。半音(ド→ド♯)が当たるようになれば、実用上は十分です。
NG例
- いきなり曲で練習する:曲は音程・リズム・歌詞・感情が同時に走るので、耳の訓練にならない。単音から始める。
- 1日30分まとめてやる:耳の訓練は集中力が切れると意味がなくなる。短く毎日のほうが伸びます。
目安として、毎日5〜10分を2週間続けると、「合っている/ズレている」の判別が自分でできるようになってきます。その時点で、あなたはタイプBの練習に進めます(=ズレているのが分かるようになった、ということです)。
動画で「声のチューニング」の感覚をつかむ
鳴っているピアノの音に声が「はまる」瞬間、音が2つでなく1つに聞こえます。その一点の感覚に注目して聴いてみてください。
タイプB(声が届かない)の練習:狙った音に一発で当てる
タイプBの人は、耳はできています。問題は、目標の音に声帯を一発で置けないことです。多くの場合、低いところから探すように上がっていって、途中で目標に着地するという癖がついています。
これはしゃくり癖(下から音を探して入ってしまう癖)とまったく同じ現象です。しゃくりは意図してやれば表現技術ですが、無意識に毎回出ているなら、それは「一発で当てられない」ことの裏返しです。
ステップ1:スタッカートで当てる — 1日10分
伸ばす練習をやめて、短く切る練習に切り替えます。長く伸ばすと、途中で微調整して「なんとなく合った」状態になり、当てる力が鍛えられないからです。
- ピアノアプリで単音を1回だけ短く鳴らす。
- 「ハッ」または「マッ」で、0.3秒くらい短く声を出す。伸ばさない。探さない。
- 音が消えたあと、脳内で「今のは上/下/ちょうど」と自己採点する。
- 1音につき10回。3音(低め・中間・高め)で計30回。約10分。
当たらなかったときに、そのまま声を動かして探しに行かないこと。 一度声を止めて、息を吸い直して、もう一度「ハッ」と当て直します。この「探さずに、当て直す」の反復が、狙いを定める力そのものです。
ステップ2:オクターブジャンプで距離感をつける — 1日5分
- ピアノで**ド(低)→ド(1オクターブ上)**を鳴らす。
- 「ホッ、ホッ」と2音を短く切って発声。間に「うぅ〜」と滑る音を挟まない。
- 10往復。
跳躍で下から滑って上がっているうちは、まだ「探して」います。声が空中を飛んで、着地点に直接乗る感覚を目指してください。
NG例
- 喉に力を入れて音を押し上げる:力むと逆に音程はぶら下がります。当たらないのは力が足りないからではなく、狙いが定まっていないからです。喉に力が入りやすい人は喉に力が入る癖の直し方も合わせて確認してください。
- 合ったかどうかを自分の感覚だけで判定する:タイプBの人でも、自分の声は骨伝導で歪んで聴こえます。必ず録音して答え合わせをする。
「取れない」のではなく「出ない」だけかもしれない
ここまで読んで「自分は低い音では当たるのに、サビの高いところだけ必ず下にぶら下がる」という人は、音程の問題ではない可能性があります。
**自分の音域より上の音は、「取れない」のではなく「そもそも出ない」**からです。声帯がその高さで振動できる状態になっていないので、耳がどれだけ正確でも、狙いがどれだけ定まっていても、声はそこに届きません。ぶら下がるのは当然です。
この場合にやるべきは音感トレーニングでも当てる練習でもなく、出せる高さの範囲を広げること、あるいはキーを下げて歌うことです。まずは自分の音域を測るところから始めてください(音域の広げ方と調べ方で測り方を解説しています)。
音程の問題と音域の問題を混ぜて悩むと、永遠に解決しません。 「その音が出るのか」を先に切り分けてから、「その音に当てられるか」を考えます。
タイプは、録音して初めて分かる
ここまで読んで気づいた方もいると思いますが、この記事のすべての判定は「録音して聴き返す」ことが前提になっています。
理由は単純で、歌っている最中の自分の声は、自分には正しく聴こえないからです。声は空気を通って耳に届くだけでなく、頭蓋骨を伝って直接内耳に届きます(骨伝導)。この2つが混ざった音を聴きながら歌っているので、「自分では合っていると思った」の"思った"は、まったく当てになりません。
だからこそ、タイプAとタイプBの切り分けは、録音という外部の目(耳)なしには成立しないのです。逆に言えば、録音して自分の声を客観的に見た瞬間に、あなたはもう「なんとなく音痴」から「原因が特定できている人」に変わっています。
さらに一歩進めるなら、録音した声を**「ズレの方向と量」まで可視化すると、判定はもっと速くなります。ボイトレアプリ「ボイとれ!」の診断では、歌った声のピッチをそのまま波形で見せ、狙った音より上に外しているのか下にぶら下がっているのか、どの高さから崩れ始めるのかを表示します。「合っていない」ではなく「ここが、こう外れている」まで見えると、AとBのどちらを直すべきかは一目で決まります。**
そのうえで、自分の声のクセ(症状)が張り上げなのか、裏返りなのか、息っぽさなのかまで分かれば、練習は一気に短くなります。声のクセを4タイプで診断するで、自分がどの症状に当てはまるかを確認してみてください。
まとめ
- 音程が取れない原因は**「聴き取れていない(A)」か「声が届かない(B)」の2つだけ**。
- 判定はピアノアプリ+録音。「合っていると思ったのにズレていた」=A、「ズレているのは分かるが直せない」=B。
- Aは耳を作る(ユニゾンでうねりを消す・1日5分×2週間)。
- Bは狙いを定める(スタッカートで当てる・探さない・1日10分)。B は下から探す癖=しゃくりと地続き。
- 高音だけぶら下がるなら、それは音程でなく音域の問題。先に切り分ける。
- そして、自分がAなのかBなのかは、録音して初めて分かる。



