ファルセットが弱いとは?息が漏れて芯がない裏声を直す練習
「ファルセットが弱い」とは、裏声のときに声帯が閉じきらず息が漏れて、声に芯がない状態のことです。強く出そうとして音量を上げても直らず、かえって喉声になります。息の量を減らすのではなく声帯の閉じを足す——その具体的な練習を、回数・秒数・NG例つきで解説します。

「ファルセットが弱い」とは、裏声を出したときに声帯(のど仏の奥にある声のヒダ)が閉じきらず、息がすき間から漏れて声に芯が残らない状態のことです。つまり弱いのは「声の大きさ」ではなく「声の密度」。だから、もっと強く出そうとして音量を上げても直りません。直し方はひとつで、息の量を増やすのでも減らすのでもなく、声帯の閉じを少しだけ足すことです。この記事では、そのしくみと、今日から自宅でできる具体的な練習手順をご紹介します。
カラオケの採点画面で「ファルセットが弱い」と出た人へ
カラオケの採点結果に「ファルセットが弱い」という項目が出て、意味を調べてここへたどり着いた方も多いと思います。先に結論をお伝えすると、それは機械が独自に作った特殊な用語ではなく、あなたの裏声そのものについての、わりと正確な指摘です。息が漏れてスカスカな裏声は、マイクを通しても声の成分が薄く、機械から見ても「弱い」と判定されます。
だからこの記事では、その項目の点数を稼ぐ小手先の方法ではなく、指摘された中身=裏声そのものを直す話をします。裏声に芯が戻れば、採点画面がどう出るかにかかわらず、歌そのものが変わります。逆に言えば、点数だけを追って息をたくさん吐いたり無理に張り上げたりすると、声のクセはむしろ悪化します。ここから先は発声の話です。
「弱い」の正体は、声帯の閉じ不足=息漏れです
裏声が弱く聞こえる原因は、ほとんどの場合ひとつです。声を出す瞬間に、左右の声帯がぴったり合わさらず、真ん中にすき間が残っている。声は、肺から上がってきた息が声帯を細かく震わせて生まれます。声帯がきちんと閉じていれば、少ない息でもよく響く「芯のある音」になります。ところがすき間が残っていると、震えに使われなかった息がそのまま「シューッ」という空気の音として抜けてしまい、声が薄く、遠くまで届かなくなるのです。
ここで大事なのが、裏声には2種類あるという事実です。息漏れが多く、1〜2秒しか保てず、ため息に近いやわらかい響きになるのが、狭い意味での「ファルセット」。一方、同じ裏声でも声帯がしっかり合わさっていて、息漏れが少なく、芯があり、長く伸ばせて音量も出せるものは「ヘッドボイス」と呼び分けられます。ボイストレーニングの世界では、弱いファルセットをヘッドボイスへ育てていくという言い方をします。「ファルセットが弱い」と言われる人は、才能がないのではなく、まだ息漏れの多い側にいる、というだけのことです。
なお、この2つの呼び方の関係や、地声・ミックスボイスとの境目についてはファルセットの出し方|裏声・ミックスボイスとの違いで整理しています。用語で混乱している場合は先にそちらを読むと、この記事の「閉じを足す」という話がすっと入ります。
やりがちな失敗=「もっと強く」=力んで喉声になる
「弱い」と言われた人がまずやってしまうのが、もっと強く出そうとすることです。これがいちばんの遠回りになります。強く出そうとすると、人は反射的に次の2つのどちらか(あるいは両方)をやります。
- 息をたくさん吐いて音量を稼ごうとする → すき間から漏れる息が増えるだけなので、「シューッ」という空気の音が大きくなり、かえって芯のなさが目立ちます。
- 喉に力を入れて押し出す → 声帯が振動しにくいほどギュッと締まってしまい、裏声がかすれる・突然出なくなる・喉が痛くなる。いわゆる喉声です。
つまり、強く出す ≠ 芯を足す。この2つはまったく別の操作です。芯を足すというのは、声帯を「軽く、でも確かに合わせる」ことであって、押す力を上げることではありません。求めるのは音量のツマミではなく、密度のツマミです。物足りないくらい静かでいいので、息が声にしっかり変換されている——この状態を先に作ります。
ちなみに、力が入って喉が締まってしまうクセそのものについては喉に力が入る・喉声の直し方で扱っています。裏声を出そうとすると喉が苦しくなる人は、そちらの脱力から入ったほうが早いこともあります。
芯を足す練習|3ステップ(各1〜2分・1日5分から)
ここからが本題です。息の量をコントロールしようとするのではなく、声帯の閉じ側からアプローチします。裏声のまま、そこにほんの少しだけ閉じを足していく順番です。
ステップ1:エッジボイスで「閉じている感覚」を見つける(30秒×2回) まず、力を抜いて「あー」と限界まで低く、ゆっくり息を細く吐きながら声を出します。「アアア…」ではなく「ブツブツ」「ジリジリ」と粒が立つような、ドアがきしむような音になれば正解です(エッジボイス)。これは声帯が軽く合わさっているときにだけ出る音なので、閉じの感覚を体で確認するためのセンサーとして使います。30秒出したら休み、もう1回。喉に痛みが出るほど力むのはNG。あくまで息はごく少なく、力ではなく合わせることで鳴らします。
ステップ2:ハミング(ンー)で裏声に閉じを乗せる(5秒×5回) 口を閉じ、鼻に軽く響かせるように「ンー」と裏声の高さでハミングします。1回5秒、5回。口が閉じている分だけ息の出口が絞られるので、声帯は自然に合わさりやすくなります。指を鼻の横に軽く当てて、ビリビリと振動が感じられればOK。ここで手のひらを口の前にかざしても、息の風がほとんど当たらないのが理想です。風が強く当たるなら、まだ漏れています。
ステップ3:ハミングから「ナー」へ開いて、芯を保ったまま母音にする(5往復) 「ンー」で芯のある響きが作れたら、その響きを崩さないまま口を開けて「ナー」に変えます。「ンーーナーー」と、途中で音量も高さも変えずにスライドさせるのがコツ。開いた瞬間に息が「フワッ」と抜けたら、それが閉じが外れた瞬間です。抜けたら、もう一度「ンー」に戻ってやり直します。これを5往復。無理のない高さ(男性なら地声の少し上、女性なら普段の裏声のあたり)で十分です。
やってはいけないNG例は次の3つです。
- 息をたくさん吸って、たくさん吐く → 漏れる量が増えるだけ。むしろ「息が余る」くらいの少なさで練習します。
- 高い音でいきなり練習する → 高くなるほど閉じの維持は難しくなります。裏声が楽に出る中音域で感覚をつかんでから上げます。
- 喉を締めて「大きくできた」と満足する → 苦しい・喉が熱いと感じたら、それは芯ではなく力みです。すぐ中断してください。
目安は1日5分・2週間。息漏れのクセは筋肉の使い方の習慣なので、1回で劇的に変わるものではありませんが、「ンーからナーに開いても息が抜けない」瞬間が増えてきたら、確実に前進しています。なお、練習中や日常で喉に痛み・違和感が続くときは、無理をせず耳鼻咽喉科など専門医に相談してください。
声帯の閉じそのものをもっと詳しく鍛えたい場合は声帯閉鎖のやり方を、閉じが整ったあとで「きれいに響く裏声」へ仕上げていく段階は裏声の出し方|きれいで芯のある裏声を出すコツで解説しています。
お手本を聴いてみましょう
ピアノに合わせて「バー(Baa)」でスケールをひと回しする発声です。音量が大きいわけではないのに、どの高さでも音の輪郭がぼやけず、出だしがはっきり立ち上がっているのが分かるはずです。この「輪郭のはっきりさ」が、あなたの裏声に足りない芯そのものです。
「閉じを足す」を耳で確かめる
同じ高さの裏声のまま、息漏れの多い状態と閉じを足した状態が並べて実演されます。声が大きくなるのではなく「密になる」——その変化の瞬間に注目して聴いてみてください。
続け方|自分の裏声が今どちら側にいるかを知る
最後にいちばん大事なことをお伝えします。息漏れは、自分の耳ではいちばん気づきにくいクセです。 自分の声は骨や体を通しても耳に届くため、実際より芯があるように聞こえてしまうからです。「ちゃんと出ている」と思っていた裏声を録音して聴き返すと、想像よりずっとスカスカだった——これは本当によくあることで、採点画面で「弱い」と出て驚く人が多いのも、まさにこのギャップが原因です。
だから練習と同じくらい、録音して外から聴くことをセットにしてください。ステップ3の「ンーーナーー」を録って、お手本と並べて聴く。芯が保てているフレーズと、抜けているフレーズを自分で判別できるようになれば、練習は一気に進みます。
ボイとれ!には、この症状にそのまま対応するレッスンがあります。まず「息漏れに芯を出す」で声帯を軽く合わせる感覚をつかみ、「弱い声に力を足す」で無理なく密度を上げ、「細い声に存在感を」で芯を保ったまま響きを広げる——という順番で組まれているので、独学でつまずきがちな「どこから手をつけるか」に迷わずに済みます。
なお、息漏れは裏声だけの問題とは限りません。話し声や地声も含めて全体的に息っぽい・通らないと感じるなら、根っこは同じ閉鎖不足です。→ 声が息っぽい・弱い・通らない人へ|芯のある声を出す練習
そして、そもそも自分の声のクセが「息漏れ型」なのか、それとも「張り上げ型」「裏返り型」なのかをはっきりさせたい方は、声のクセ診断|4タイプ別の直し方から始めてください。原因が違えば、やるべき練習も正反対になります。弱いと言われた裏声も、正体さえ分かれば直せます。焦らず、今日の5分から始めていきましょう。



