幾田りらの歌い方の特徴|透明感のある声の出し方とウィスパー寄り発声のしくみ
幾田りらさん(YOASOBIのikura)の歌声の核は、息の流れに声を乗せるウィスパー寄りの発声・鼻腔〜口腔の前寄り共鳴・しゃくらない正確なピッチの3つ。ソロとYOASOBIでの声の使い分け、息だけ8秒×5回から始める練習手順、真似するときの注意点まで解説します。

幾田りらさん(YOASOBIのikura)の歌声の核は、①息の流れに声を乗せるウィスパー寄りの柔らかい発声②響きを鼻腔〜口腔の「前寄り」に集める共鳴③しゃくりや過剰なビブラートに頼らない正確なピッチの3つです。透明感は生まれつきの声質だけで決まるものではなく、この3つの「動作」の組み合わせで説明できます。
そして真似するときに最初につまずくのは、技術そのものより「自分の声が今どうなっているか」が自分では聞こえないこと。息を混ぜたつもりが漏れすぎて痩せていないかは、録音して聴き返さないと判定できません。
なお、この記事は**幾田りら個人の発声技術(声の出し方)**に絞ります。YOASOBI楽曲のカラオケ攻略——ボカロ由来の譜割り・息継ぎの設計・キーの決め方——はYOASOBIの歌い方で扱っているので、「群青や夜に駆けるを歌い切りたい」という人はそちらを読んでください。ここでは「あの声はどうやって出しているのか」を分解します。
幾田りらの声の出し方の土台|息の流れに声を乗せる発声
幾田りらさんの発声は、喉で声を押し出すタイプではなく、きれいに流れる息の上に声を乗せるタイプです。ボイストレーナーによる分析でも、息の成分を多く含んだ「息系」の発声が土台にあり、それが倍音(声に含まれる高い周波数の響き成分)の乗りやすい透明なサウンドを作っている、という見方でほぼ一致しています。
ここで大事な区別があります。「息を混ぜた声」と「息が漏れただけの声」は別物です。
- 息を混ぜた声:声帯は軽く閉じたまま、息がなめらかに通る。小さい音量でも芯があり、マイクに乗る
- 息が漏れただけの声:声帯が開きっぱなしで、息が素通りする。スカスカで届かず、高音で痩せる
幾田りらさんの声は前者です。ウィスパーボイス(囁くように息を多く混ぜた発声)に寄せながら、芯は失わない。この「息と芯の共存」こそが技術の本体で、単に息っぽくすれば近づくわけではありません。芯を残したまま息を混ぜるバランスの作り方はウィスパーボイスの出し方で手順化しています。
透明感の正体|前寄りの共鳴と「しゃくらない」ピッチ
透明感のある声の出し方を分解すると、息の次に効いているのは共鳴の位置です。幾田りらさんの声は、鼻腔(鼻の奥の空間)から口腔にかけての「前寄り・斜め上」に響きが集まっていると分析されます。響きが前に集まると、声は細くても明るく抜けて聞こえます。逆に響きが喉の奥に落ちると、同じ声量でもこもって聞こえます。響きを前に集める感覚は鼻腔共鳴のやり方のハミング練習で確認できます。
もうひとつの柱が音程の入り方です。幾田りらさんは、言葉の出だしで下からしゃくり上げず、最初から目的の音に当てにいきます。ビブラートも控えめで、まっすぐ伸ばすフレーズが多い。装飾で気持ちよく聴かせるのではなく、装飾がなくても成立するピッチの正確さで聴かせるタイプです。
これは真似する側にとって重要な情報です。透明感のある歌い方に寄せたいとき、こぶし・しゃくり・揺らしを足すほど逆方向に進みます。まず装飾を全部外し、音の入りを正確に置く練習から始めるのが近道です。
早めにファルセットへ渡す高音処理
高音の処理も幾田りらさんの特徴がよく出る部分です。地声を限界まで引き上げて張るのではなく、比較的早い段階でファルセット(息を多く含んだ柔らかい裏声)側へなめらかに渡します。しかもその裏声が細く弱くならず、地声との音量差・音色差が小さいため、切り替わりの段差がほとんど聞こえません。
地声と裏声の中間的な響き(いわゆるミックスボイス)を含めて、声区の移行が滑らかであることが、高音でも力んで聞こえない理由です。ファルセットと裏声・ミックスボイスの関係を整理したい人はファルセットの出し方と裏声との違いから入ると迷いません。
真似するときの分岐点はここです。地声のまま高音を張り上げる癖がある人は、幾田りらさんの曲を歌うとサビ手前で喉が締まります。「高い音は軽くしてから渡す」という順序を先に体に入れてください。
ソロとYOASOBI(ikura)で声はどう使い分けられているか
同じ人が歌っているのに、ソロの幾田りら名義とYOASOBIのikura名義では声の印象が違って聞こえます。これは気のせいではなく、制作プロセスの違いに合わせた歌い分けとして説明できます。
| ソロ(幾田りら名義) | YOASOBI(ikura名義) | |
|---|---|---|
| 曲の成り立ち | 本人が作詞・作曲 | Ayaseがボカロのデモを制作 |
| 歌い方の傾向 | 息多め・語りかけるような自然な揺らぎ | デモに寄せた直線的で正確な歌唱 |
| 声の印象 | 澄んでいて体温がある | 輪郭がくっきりして機械的な精度がある |
YOASOBIの楽曲はボーカロイドのデモを人間が再現する構造のため、ikuraとしての歌唱は装飾を削ぎ、音符を正確になぞる方向に振れます。一方ソロでは、息の量やフレーズ終わりの処理に本人の呼吸感が残ります。たとえば「スパークル」や「Answer」などのソロ曲では、YOASOBI楽曲より息の成分が前に出た、距離の近い歌い方が聴き取れます。
つまり「幾田りらっぽさ」を目指すなら息と共鳴のコントロール、「YOASOBI楽曲を歌い切ること」が目的なら譜割りと息継ぎの設計、と鍛える場所が変わります。後者はYOASOBIの歌い方で曲ごとに解説しており、実際に歌うときのキー設定は夜に駆けるの音域・群青の音域・アイドルの音域といった曲別記事で、最低音・最高音と何キー下げるべきかまで具体的に確認できます。
「スパークル」の一発撮りで“息が流れたまま芯が残る声”を聴く
Aメロの小さな音量でも言葉の輪郭がマイクに乗り続けていること、サビで音が上がった瞬間に声が「強く」ではなく「軽く」なることの2点に注目して聴いてみてください。
幾田りらっぽい声に近づく練習手順
順番が重要です。息→響き→芯→アタックの順で、1つずつ録音で確認しながら進めてください。
- 息の通り道を作る:「スー」と歯の間から細く一定に8秒吐く×5回。息の音が途中で揺れたりかすれたりしないことが合格ライン。毎日続けて2週間が目安です。
- 響きを前に集める:口を閉じてハミングを5秒×10回。鼻の付け根あたりに振動を感じる位置を探します。振動が喉に落ちたらやり直し。
- 息に芯を足す:「フー(息だけ)→ウー(声)」を切れ目なくつなげる×5回。息7:声3くらいの薄い声から始めて、少しずつ声の割合を上げます。
- しゃくらずに当てる:好きな曲の1フレーズを、原曲テンポの8割で、しゃくり・ビブラート禁止で3回歌って録音。音の入りが下から潜っていないかだけをチェックします。
NG例も先に知っておいてください。息を漏らしすぎて声が痩せる(1と3のバランス崩れ)、ウィスパーのまま声量を張って喉を締める(小さい声の技術に大きい声の力みを持ち込む)、しゃくりで音程の入りをごまかす(4の目的が消える)。この3つはどれも、やっている本人には正しく聞こえてしまうのが厄介なところです。
真似するときの注意点
- 声質そのものはコピーできません。声帯の長さや厚みは人によって違います。真似する対象は「息の乗せ方・響きの位置・音程の入り方」という動作です。
- **息っぽさは「量」ではなく「流れの質」**です。息の量を増やすほど透明になるわけではなく、一定に流れ続けることが本体です。
- 高音は張らずに渡す。地声で押し切る癖のまま寄せようとすると、換声点(地声と裏声の切り替わる境目)で声が割れます。
- 喉の痛みや違和感が続く場合は無理をせず、耳鼻咽喉科で診てもらってください。
自分の声とのギャップは録音でしか見えない
幾田りらさんの発声に寄せる練習は、人によってスタート地点が正反対です。もともと息っぽくて芯がない人は芯を足す練習から、地声が強くて張り上げ癖のある人は力みを抜く練習から始めることになります。同じ目標でも処方箋が逆なのです。
自分がどちら側かは、骨伝導で補正された「頭の中の自分の声」では判定できません。まず1フレーズ録音して聴き返し、声のクセを4タイプで診断する方法で自分のタイプを特定するところから始めてください。ちなみに息が混じって芯がないタイプだった場合、ボイとれ!には「息漏れに芯を出す」というそのものずばりのレッスンがあります。タイプが分かれば、上の練習手順のどこを厚くすべきかも自然に決まります。



