デスボイスの出し方|声帯を守って仮声帯を鳴らす手順と喉を壊さない鉄則
デスボイスは「喉を潰して叫ぶ音」ではありません。声帯はいつも通り鳴らして守り、その上にある仮声帯を振動させて歪みを作る技術です。だから正しく出せば喉を壊さずに出せますし、逆に間違えると一発で潰れます。しくみ・種類・小さい音量から始める手順・喉を壊さない鉄則を解説します。

デスボイスは、声帯で叫んで出す音ではありません。声帯はいつも通り鳴らしたまま守り、その上にある仮声帯(かせいたい)というヒダを振動させて歪み(ひずみ)を作っています。 音源が別の場所にあるからこそ、正しく出せば喉を壊さずに出せますし、逆に「喉を締めて全力で叫ぶ」をやると一発で声を潰します。
この記事では、メタル・スクリーモ・ボカロの「歌ってみた」でデスボイスパートを歌いたい人に向けて、しくみ・種類・小さい音量から始める練習手順・喉を壊さないための鉄則を、順番に説明します。
デスボイスは「声帯で叫ぶ音」ではない
歌声も話し声も、音源は声帯です。声帯は粘膜に覆われたごく薄いヒダで、これを閉じて振動させることで音が出ます。ここに強い摩擦をかけて「ガーッ」というノイズを出そうとすれば、傷つくのは当たり前です。声が枯れる・痛い・翌日出ない——これは「まだ慣れていないだけ」ではなく、音を出す場所を間違えているという構造的な失敗のサインです。
デスボイスが成立しているとき、喉の中では役割が分かれています。
- 声帯:普段どおり鳴っている(または最小限の振動をしている)。守る側。
- 仮声帯:声帯のすぐ上(外側)にあるもうひと組のヒダ。普段の発声では音を出さず、咳払いや「んんっ」と低く唸るときに関与します。ここを振動させると、声にザラついた倍音が重なる。歪みを作る側。
- 息の圧力:お腹で支えた息を一定量流し続けることで、歪みが安定して持続します。息が足りないと、人は無意識に喉を締めて音量を補おうとします。これが喉を痛める最短ルートです。
ボイストレーナーの解説でも、デスボイスは「喉を締めて出すもの」ではなく、声帯周辺や口・鼻の空間の共鳴を活かして響かせるもので、喉に力を入れると痛める恐れがあると繰り返し指摘されています。つまり、**デスボイスは「大声を出す競技」ではなく「歪みをどこで作るかを覚える技術」**です。この一点を取り違えている人が、練習ではなく破壊をしています。
グロウルとフライスクリーム|デスボイスの2系統
呼び方はジャンルや国によって揺れがあり、統一された定義はありません(同じ音を別の名前で呼んでいることもよくあります)。ただ、歪みを作る主役が「仮声帯」なのか「声帯のごく弱い振動」なのかで、大きく2系統に整理できます。
| 低音系|グロウル/フォールスコード・スクリーム | 高音系|フライスクリーム | |
|---|---|---|
| 歪みを作る場所 | 仮声帯(false cord=フォールスコード)を唸らせる | 声帯のフライ(エッジボイス)を土台に、裏声側で歪ませる |
| 音の質感 | 低く重い。獣が唸るような超低音 | 金属的でシャリシャリした高い叫び |
| よく使われる場面 | デスメタル・ハードコアの低音パート | スクリーモ・メタルコアの高い絶叫パート |
| 難易度・入りやすさ | 咳払いの延長で感覚をつかみやすい。初心者はここから | エッジボイスが安定して出せることが前提 |
「デスボイス」と呼ばれるものの多くは、低音系(グロウル/フォールスコード)に含まれます。初心者がまず触るべきなのは低音系です。フライスクリームはエッジボイスの出し方ができていることが土台になるので、そちらが不安定なうちに手を出すと、結局「裏声で無理に絶叫する」だけになって喉に来ます。
なお、より広く「歪ませた叫び声」全般をどう扱うかはシャウトの出し方で、歌の中に一瞬だけザラつきを混ぜる技術はがなり声の出し方で扱っています。この記事は、その中でもデスボイス(持続する重い歪み)そのものに絞って掘り下げます。
吐く息で出す? 吸う息で出す?
デスボイスには、息を吐きながら出す「呼気(吐き)」と、息を吸いながら出す「吸気(吸い)」の2つの方法があります。
- 呼気(吐く):普通の発声と同じく、息を吐きながら歪ませます。歌の中で使うならこちらが基本です。息の支えをそのまま使えるので、音量・音程・言葉のコントロールが効き、フレーズとして成立させやすい。
- 吸気(吸う):息を吸い込みながら唸ると、比較的簡単に「それっぽい」音が鳴ります。手軽に音が出るため入門として紹介されることもありますが、乾いた空気を勢いよく声帯付近に通すことになり、喉への負担が大きい・声量やコントロールが出しにくいと指摘されることが多い方法です。
プロの中には片方だけを使う人もいて、どちらが絶対的に正しいという結論は出ていません。ただ、「歌の中で使う技術として身につける」という目的なら、吐く息(呼気)で練習してください。 吸気は音が出た瞬間の達成感が大きいぶん、「出せた気になったまま喉を消耗し続ける」危険があります。この記事の手順もすべて呼気で書いています。
出し方の手順|小さい音量で「歪みだけ」を作る
大前提:最初から全力を出さないでください。 ここでの目標は「大きい音を出すこと」ではなく、小さい音量で歪みだけを作れるようになることです。小さい音で歪ませられない人が、大きい音で歪ませることはできません(ただ叫んでいるだけになります)。
以下は低音系(グロウル)の入り口です。1セッション3〜5分まで、週2回程度を上限にしてください(後述の鉄則を先に読んでから始めてください)。
ステップ1|エッジボイスで声帯の最小の鳴りを確認する(30秒×2回) 力を抜いて、自分の一番低い声からさらに下げ、「あ゛ー」と低くプツプツ鳴る音を出します(エッジボイス/ボーカルフライ)。これは声帯を最小の力で鳴らしている状態=喉が締まっていない基準点です。ここで喉に力みや痛みがあるなら、その先には進まないでください。
ステップ2|咳払いで仮声帯の位置を知る(30秒×2回) 「んんっ」と軽く咳払いをします。喉の奥で何かが軽く触れ合う感覚がありますが、これが仮声帯です。大きな音は不要です。強くやると声帯にも負担がかかるので、痛みが出る強さでは絶対にやらないでください。
ステップ3|唸りだけを2〜3秒キープする(3回) 咳払いの音を、そのまま「ぅぅぅ〜」と低く唸る形に伸ばします。音量は会話の半分以下。 音程はまだ乗せません。歪みだけが2〜3秒続けば成功です。喉が痛い・力むなら、息が足りていないか、声帯を締めています。すぐ中止します。
ステップ4|唸りに声を2割だけ混ぜる(5回) 唸りを保ったまま、「あー」という普通の声を2割くらいだけ足します。歪み8:声2のイメージです。まだ小さい音量のままで構いません。声を混ぜた瞬間に唸りが消えるなら、混ぜる量が多すぎます。
ステップ5|息の量だけで音量を上げる(3回) ここで初めて音量を上げます。**上げるのは「喉の力」ではなく「息の量」**です。お腹を支えたまま息を送り込み、歪みが濃くなるのを確認します。喉に力を入れて大きくした瞬間に、それはデスボイスではなくただの叫びになります。
やってはいけないNG例
- 喉を締めて「ガーッ」と大声で叫ぶ(=声帯を直接擦っている。最も多い失敗)
- 咳をするように強く声を出す(初心者がやると声帯を痛めやすい)
- 声が枯れてきたのに「今日中にコツを掴む」と続ける
- ウォームアップなしでいきなりデスボイスから始める
- 毎日、長時間やる
低音グロウルのしくみを耳で確かめる
叫んで音量を上げている音と、小さい音量のまま歪みだけが濃くなっている音の差——そこだけに注目して聴いてみてください。
喉を壊さないための鉄則
デスボイスで一番大事なのは、出し方よりもやめ方です。ここを守れないなら、デスボイスには手を出さないほうがいいと私は考えています。歌える喉は替えがききません。
- 声が枯れたら、その日はもう歌わない。 「枯れ声のほうが味が出る」は誤解です。枯れている=声帯が炎症を起こして腫れている状態で、その上から負荷をかけるのは傷口を擦るのと同じです。1日で身につけようとする人が、一番早く潰れます。
- 1回3〜5分、週2回程度を上限にする。 回復の時間を挟まないと負荷が蓄積します。デスボイスは筋トレと同じで、上達は練習量ではなく「回復を挟んだ継続」で決まります。
- 必ずウォームアップしてから。 冷えた声帯にいきなり最大負荷をかけないでください。リップロールやハミングで数分温めてから入ります。
- 痛み・かすれが続くなら、練習で解決しようとしない。 痛みや声のかすれが数日以上続く、いつもの高さが出なくなる——このときは練習方法を工夫するのではなく、耳鼻咽喉科(できれば音声を専門に診てくれる医師)に相談してください。 声帯の状態は自分では見えません。ネットの情報や自己流のケアで判断しないことが、結果的に一番早く歌に戻れる道です。
- 土台の発声を先に作る。 デスボイスは腹式呼吸・脱力・喉を開く・声帯閉鎖といった基礎の上に乗る技術です。基礎がないまま歪みだけ真似すると、負荷を逃がす場所がないので全部が喉に来ます。予防とケアの全体像は喉を痛めない歌い方にまとめています。
女性のデスボイスはどう出すか
「女性はデスボイスが出せない」と言われることがありますが、そんなことはありません。ただし、男性と同じやり方をそのままなぞると出にくいのは事実です。
理由は声帯の厚みと長さです。女性は男性に比べて声帯が短く薄いため、男性のような重く低いグロウルは、地の声質だけでは同じ音量・同じ低さで鳴らしにくい。ここで「もっと低く、もっと大きく」と力で押しにいくと、喉を締めて張り上げる方向に行き、真っ先に潰れます。
女性の場合は、次の3点で組み立て直してください。
- 低さで勝負しない。 デスボイスの正体は「低音そのもの」ではなく「歪み」です。自分がラクに出せる高さ(中音域)で、まず歪みだけを作る。低くするのはその後で、しかも喉の力ではなく喉の奥の空間(開き)で作ります。
- 高音系(フライスクリーム)のほうが相性がいいこともある。 低い唸りが出にくいなら、エッジボイスの出し方を土台にした高音側の歪みから試すと、感覚をつかみやすいことがあります。実際、女性ボーカルのスクリームは高音側で成立していることが多いです。
- 音圧ではなく歪みの質で聴かせる。 ライブでもレコーディングでもマイクを通します。大声を出す競技ではないので、小さくてもザラつきが濃い音を目指すほうが、結果として「迫力がある」と聴こえます。
手順自体は上の5ステップと同じです。ステップ3の「唸りだけをキープ」を、無理に低い音でやらない——ここだけ読み替えてください。
曲での使いどころ|1曲で使いすぎない
デスボイスが上手い人ほど、曲の中で使う量が少ないです。理由は単純で、ずっと歪ませていると①喉がもたない②歪みが「効果」ではなく「地の声」になって聴き手が慣れてしまう、の2つです。
- 1曲につき1〜2箇所、サビ頭や落ちサビ明けなど、決め所に置く。曲を通してデスボイスで歌い切る練習を独学でやらない。
- 地声パートとの切り替えを練習する。 難しいのはデスボイス単体ではなく、「歪ませた直後に、普通の歌声をきれいに戻せるか」です。歪ませたあとで声がガサついたまま戻らないなら、それは声帯を巻き込んで鳴らしている証拠です。歪み→普通の声を、1フレーズ単位で交互に練習してください。
- 切り替えができないうちは曲に乗せない。 歌ってみたの音源で「デスボイスパートだけ別テイクで録る」のは普通のことです。ライブでの通しは、切り替えが安定してからで十分間に合います。
デスボイスは「最後に足す技術」|先に自分の声のクセを直す
厳しい言い方になりますが、デスボイスを覚えても歌は上手くなりません。 デスボイスは、土台の発声ができている人が最後に足す「表現の色」であって、歌の土台そのものではないからです。
順番を間違えている人がとても多いところです。高音で喉が締まる、声が裏返る、声が細くて通らない——こうしたクセを抱えたままデスボイスを真似すると、負荷を逃がす場所がどこにもないので、喉を壊すだけで歌自体は1ミリも上手くなりません。 逆に土台さえできていれば、デスボイスは「歪みをどこで作るか」を覚えるだけの話になります。
そして厄介なのは、自分の声のクセは自分では聴こえないことです。骨伝導で聴いている自分の声と、他人が聴いている声は別物なので、「喉を締めているつもりはない」人ほど締めています。まずはスマホでいいので歌を録音して聴き返し、自分がどのタイプなのかを把握してください。張り上げ型なのか、裏返る型なのか、息っぽい型なのか——それぞれ処方箋が違います。
自分がどのタイプか分からない人は、あなたの声のクセはどのタイプ?4つの症状と直し方から確かめてみてください。アプリ「ボイとれ!」では、実際に声を出すとその場で症状を判定し、たとえば高音で張り上げるクセがある人には「張り上げをやめる」、息漏れがある人には「息漏れに芯を出す」といったレッスンが自動で並びます。喉を潰してから後悔する前に、土台の順番を確かめておいてください。



