発声・ボイトレ基礎

声変わりで歌が下手になった?下手になったのではなく音域が下にずれただけ

声変わりで前は歌えた曲が歌えない——それは歌が下手になったのではなく、音域が下にずれて曲のキーが合わなくなっただけです。今の音域を測り直し、曲とキーを選び直し、新しく手に入った低音域を鍛える3ステップを解説します。

ボイとれ!編集部ボイとれ!編集部
声変わりで歌が下手になった?下手になったのではなく音域が下にずれただけ

声変わりのあと「前は歌えた曲が歌えない」「自分は歌が下手になった」と感じているなら、その自己評価はほぼ確実に間違っています。下手になったのではなく、音域が下にずれただけです。今まで地声で届いていた高さに届かなくなるのは当然のことで、やることは3つ——今の音域を測り直す・曲とキーを選び直す・新しく手に入った低音域を鍛える。これだけで「歌えない」は解けます。

歌唱力そのもの(音程を取る力、リズム、声の使い方)は声変わりで失われません。変わったのは「どの高さの音が、どの声の出し方で出るか」という器のサイズだけです。器が変わったのに、前と同じキーの曲を前と同じ歌い方で歌おうとすれば、当然うまくいきません。


なぜ声変わりで「歌えなくなった」と感じるのか

声変わりでは、声そのものが低い方向に移動します。歌う側の実感としては、次の2つが同時に起きます。

1. 今まで地声で届いていた高さに、地声で届かなくなる

一番わかりやすい変化がこれです。声変わり前に気持ちよく歌えていた曲のサビは、たいてい当時の自分の地声のいちばん上あたりを使って歌っています。音域が下にずれれば、その音は「地声のいちばん上」ではなく「地声では届かない高さ」に変わります。

ここで多くの人がやってしまうのが、届かない音に力で届かせようとすることです。喉を締めて張り上げれば、一時的に音は出るかもしれません。しかし出るのは苦しそうな声で、しかも音程は不安定になります。そして「昔はきれいに出せたのに、今は汚い声しか出ない=下手になった」という誤った結論に着地してしまいます。届いていないのは実力ではなく、単に音の高さが自分の器の外にあるだけです。

この「届かない音を力でねじ伏せる」歌い方が癖として残ると、声変わりが落ち着いたあとも高音がラクにならなくなります。癖そのものの直し方は高音で張り上げて喉が締まる癖の改善方法にまとめてあります。

2. 地声と裏声の「境目」の位置が変わる

もう1つ、見落とされがちなのがこれです。地声から裏声に切り替わるポイント(換声点)は、音域が下にずれれば一緒に下に移動します

つまり、声変わり前は「地声で歌い切れていたサビ」が、声変わり後は「途中で換声点をまたぐサビ」に変わっているということです。同じ曲・同じキーなのに、歌の途中で声の切り替えが必要になる。ここで切り替えがうまくいかず、スカッと裏返ったり、逆に切り替えを拒否して張り上げたりすると、「前より下手になった」ように聞こえます。

換声点そのものの扱い方は声が裏返る換声点をなめらかにつなぐ方法で扱っていますが、声変わりのタイミングではまず「境目が動いた」という事実を受け入れるのが先です。動いた場所を把握しないまま、前と同じ場所で切り替えようとしても合いません。

声そのものに違和感や痛みが続く場合は、無理に歌わず専門医に相談してください。ここから先は「痛みはないが音域が変わって歌いにくい」という前提の話です。


ステップ1:今の音域を測り直す

まずやるべきは、練習でも曲選びでもなく、現在地の測定です。前の音域の記憶で歌おうとしている限り、ずっと合わない曲を歌い続けることになります。

測り方(所要10分・週1回でOK)

用意するのは、ピアノアプリかチューナーアプリ(無料のもので十分)と、録音できるスマホだけです。

  1. 喉を起こす(3分):リップロール(唇を軽く閉じてブルブル震わせる)を20秒×3セット、ハミング(口を閉じて「んー」)を30秒×2セット。冷えた状態で測ると本来より狭く出ます。
  2. 低い方を測る(2分):出しやすい高さから「あー」で半音ずつ下げ、声がガサガサに崩れる直前の音を最低音とします。無理に絞り出した音は含めません。
  3. 地声の最高音を測る(3分):同じく半音ずつ上げ、喉を締めずに出せる最後の音を地声の最高音とします。張り上げれば出る音は含めないのがコツです。ここを甘くすると、あとの曲選びが全部ずれます。
  4. 裏声の最高音を測る(2分):裏声に切り替えて上へ。かすれずに保てる最後の音を記録します。
  5. 換声点を記録する:地声から上げていって、声が切り替わりたがる(裏返る・急に薄くなる)高さをメモします。ここが今のあなたの境目です。

記録の仕方とNG例

測った4つの数字(最低音/地声最高音/裏声最高音/換声点)を、日付とセットでメモしておきます。声変わりの最中は1〜2か月で数字が動きます。だからこそ「週1回・10分」で測り直す価値があります。

  • NG例1|張り上げた音を最高音にする:一番やりがちです。喉を締めて出した音を「出せる音」に含めると、選ぶ曲が全部ハードモードになります。
  • NG例2|寝起き・声が出にくい日に測って落ち込む:低めに出るのが普通です。同じ時間帯(例:夕方)に測ると比較しやすくなります。
  • NG例3|1回測って終わりにする:声変わりの最中は変動します。1回の測定を「これが自分の音域だ」と固定しないでください。

音域を測って広げていく手順は音域を広げる方法と自分の音域の調べ方でより詳しく整理しています。声変わり後の練習は、この「測る」を出発点にしてください。


ステップ2:曲とキーを選び直す

測った数字が出たら、次は曲を今の自分に合わせる作業です。ここで大事なのは、原曲キーにこだわらないことです。

原曲キーは「その歌手の音域に合わせて作られたキー」でしかない

原曲キーは絶対的な正解ではありません。その曲を歌った歌手の音域にちょうど合うように設定されているだけです。あなたの音域が違えば、合わないのが当たり前です。キーを下げて歌うのは妥協ではなく、楽器のチューニングを自分に合わせるのと同じ、ごく普通の調整です。

キーの合わせ方(カラオケで実践・1曲5分)

  1. まず原曲キーでサビだけ歌ってみる。喉を締めずに出せたかを基準にします(音が出たかどうかではありません)。
  2. 苦しかったら**−2から下げ始める**。半音2つ分です。1曲まるごと歌わず、サビだけで判定すると早く決まります。
  3. −3〜−5まで試す。声変わり後は、以前歌っていた曲がこのあたりに落ち着くことが多いです。
  4. 下げすぎに注意:キーを下げると高音はラクになりますが、その分低音側が自分の最低音より下に落ちて、Aメロがスカスカになることがあります。サビだけでなくAメロの低いところも確認して、両方が収まるキーを選びます。
  5. 決まったキーは曲名と一緒にメモします。声変わりが進めば変わるので、これも数か月ごとに見直します。

新しく選ぶ曲の探し方

「今の音域に合う曲」を探すときの観点はシンプルです。

  • 音域の幅が狭い曲から入る(最低音と最高音の差が小さい曲)。1曲の中で上下に大きく飛ばないぶん、換声点をまたぐ回数が減ります。
  • サビの最高音が、自分の地声最高音より1〜2音低い曲を選ぶ。ぴったりの曲は、本番では出せません。余裕を残すのが選曲のコツです。
  • 低音側に余裕がある曲を選ぶ。声変わり後は低い方が伸びているので、以前は低すぎて歌えなかった曲が「今なら歌える曲」に変わっている可能性があります。

具体的な曲の選び方はカラオケで歌いやすい曲の選び方男性が歌いやすい曲の選び方にまとめてあります。**声変わりの直後は「新曲開拓のチャンス」**だと考えてください。前のレパートリーを捨てるのではなく、いったん棚に上げて、今の器に合う曲を増やす時期です。


ステップ3:新しく手に入った低音域を鍛える

声変わりで失ったものばかり数えていると気づけませんが、低音域は明確に増えています。以前は出なかった低い音が、今は出るようになっているはずです。これは新しく手に入った武器で、練習しないともったいない領域です。

低音は「出るだけ」だと、たいていスカスカで芯がなく、カラオケでマイクに乗りません。低音を「使える低音」にするには、ただ低い音を出すのではなく、息を漏らさずに声帯を軽く閉じたまま低い音を保つ練習が必要です。

低音を使える音にする練習(1日5分・2週間で変化が出る)

  1. ハミングで下りる(2分):口を閉じて「んー」のまま、出しやすい高さから半音ずつ下へ。唇と鼻のあたりに響きが残っているかを確認しながら下ります。響きが消えたらそこが今日の限界。無理に下げません。
  2. 「ん→あ」で開く(2分):ハミングで低い音を保ったまま、口を「あ」に開きます。開いた瞬間に声がスカスカになるなら、息が漏れています。開いても音量と芯が変わらないのを目標に、5音ぶん×3セット。
  3. 低音ロングトーン(1分):自分の最低音より2〜3音上の高さで、5秒間まっすぐ伸ばす。声が揺れたり途中で切れたりせず伸ばせるかを見ます。5秒×5本。
  • NG例|低音を出そうとして顎を引き、喉を押し下げる:低い音は「押し下げて」出すものではありません。喉を潰した低音は、太いようで実際は響かず、しかも喉に負担が残ります。
  • NG例|低音は息を吐けば出ると思って息を大量に流す:息っぽいだけの低音になります。息の量ではなく、声帯が軽く閉じているかが芯を決めます。

低音そのものの出し方は低い声を出す方法で詳しく扱っています。声変わりで手に入った音域を、そのまま「使える音」に変えていくところまでが練習です。


声変わりの最中に歌ってもいいのかを動画で確かめる

声変わりの時期に「歌う量」ではなく「歌い方」をどう扱うか、という部分に注目して聴いてみてください。


焦らないこと——この時期に高音を追いかけない

声変わりの最中は、声のコンディションが日によって違います。昨日は出た音が今日は出ない、ということが普通に起こります。ここで「昨日出たのに出ないのは自分のせいだ」と思って高音を追いかけると、張り上げの癖だけが残ります。

この時期にやって損しないことは、はっきりしています。

  • 測る(週1回・10分):音域の変化を数字で追う。動いている事実が見えるだけで、焦りは減ります。
  • 今の音域で歌う:キーを下げて、余裕のある高さで歌う。喉を締めずに歌えた回数を積むほど、変化が落ち着いたあとに残るのは「ラクに出す感覚」です。
  • 低音を育てる:この時期にしか手に入らない新しい音域を、使える音にしておく。

逆に、この時期にやると後を引くのが**「昔出せた音」への執着**です。前のキーに戻したくて張り上げを繰り返すと、声変わりが落ち着いたあとも、力んで高音を出す癖だけが定着します。前の音域は戻ってきませんが、新しい音域で高音を出す回路は、これから作れます。急ぐ理由はありません。


まず「今の自分の声がどうなっているか」を測ることから

声変わりで歌が下手になった、という感覚の正体は、ほとんどが**「前の音域の記憶」と「今の声」のズレ**です。ズレを埋める唯一の方法は、今の声を測って、今の声に合わせて曲とキーを選び直すこと。実力の問題ではありません。

そしてもう1つ厄介なのが、声変わりの最中は、自分の声が自分ではいちばん把握しにくいという点です。頭蓋骨を通して聞こえる自分の声と、実際に外に出ている声は別物です。「まだ地声で届いている」と思っている音が、実は張り上げになっている——これは録音して聴き返さないと絶対に気づけません。

音域の数字を測るだけでなく、自分の声が今どんなクセを持っているのか(高音で喉を締めているのか、換声点で裏返っているのか、息が漏れて芯がないのか)まで見えると、次にやるべき練習が1つに絞れます。自分の声のクセを4タイプで診断するを使って、今の声の状態を確かめるところから始めてください。声変わりで変わったのは器のサイズであって、あなたの歌唱力ではありません。

#声変わり#音域#キー#低音

関連する記事

自分の歌声を録音すると気持ち悪いのはなぜ?録音のやり方と、聴き返すときの4つのチェックポイント
発声・ボイトレ基礎

自分の歌声を録音すると気持ち悪いのはなぜ?録音のやり方と、聴き返すときの4つのチェックポイント

録音した自分の歌声が気持ち悪く聞こえるのは、あなたの声が悪いからではありません。骨伝導で聞いていた声と、実際に外に出ている声が違うだけです。そして本当の自分の声は、録音でしか聞けません。スマホでの録音のやり方と、聴き返すときの4つのチェックポイントを解説します。

ボイとれ!編集部ボイとれ!編集部
ボイストレーニングの効果はいつ出る?期間の目安と、効果が出ない人の4つの共通点
発声・ボイトレ基礎

ボイストレーニングの効果はいつ出る?期間の目安と、効果が出ない人の4つの共通点

ボイトレの効果は「すぐ出る」ものではありませんが、何がいつ変わるかには順番があります。喉の力み→音域→声質→曲の中で使える、という段階の目安と、効果が出ない人の4つの共通点、逆効果になる練習、変化に気づくための記録の取り方をまとめました。

ボイとれ!編集部ボイとれ!編集部
歌のブレスとは?「吸う音」がうるさい原因と、静かに一瞬で吸うコツ
発声・ボイトレ基礎

歌のブレスとは?「吸う音」がうるさい原因と、静かに一瞬で吸うコツ

歌のブレスとは、フレーズの合間に息を吸い直す動作のこと。ただ「どこで吸うか」だけでなく、「どんな音で」「どれだけ吸うか」で歌の印象は大きく変わります。ブレス音がうるさくなる原因と、静かに一瞬で吸う練習方法を解説します。

ボイとれ!編集部ボイとれ!編集部