ミックスボイス・高音約10分で読めます

ミックスボイスとは?「地声と裏声を半々で混ぜた声」ではない理由と、聴き分けの手がかり

ミックスボイスとは、地声と裏声の間を段差なくつないだ声のこと。「地声と裏声を半々で混ぜる」という説明が誤解を生む理由と、声帯で実際に起きていること(閉じ方と伸ばし方の連続的な調整)を研究報告をもとに整理します。ミドルボイス・ヘッドボイスとの呼び方のズレ、張り上げ・裏返り・弱い裏声と聴き分ける4つの手がかりを、男性の声のお手本音源つきで解説します。

ボイとれ!編集部ボイとれ!編集部
ミックスボイスとは?「地声と裏声を半々で混ぜた声」ではない理由と、聴き分けの手がかり

ミックスボイスとは、地声と裏声の間を段差なくつないだ声のことです。低い音から高い音へ上がっていく途中で、声がひっくり返ったり、喉を締めて叫ぶような音になったりせず、芯を残したまま軽くなっていく声を指します。研究者の説明でも、地声から裏声まで声の切れ目をなくして橋渡しする発声だとされています。

ただし「地声と裏声を半々で混ぜた声」と覚えてしまうと、練習の方向を取り違えやすくなります。実際に起きているのは、声帯の閉じ方と伸ばし方を、音の高さに合わせて少しずつ連続的に調整することです。

この記事では、定義と仕組み、呼び名のズレ、自分の声がつながっているかを耳で見分ける手がかりを整理します。練習の手順はミックスボイスの出し方【5ステップ】で扱っているので、ここでは「そもそも何が起きている声なのか」に絞ります。

なお、つながっているかどうかは歌っている本人の耳では判定しにくく、録音を聴き返しても「どのタイプのつまずきか」までは見分けがつかないことが多いものです。だから、声のクセを症状別に切り分けてから直す、という順番が近道になります。

ミックスボイスとは?地声と裏声の間を段差なくつないだ声

ミックスボイスは、「声が切り替わる境目を、聞き手に気づかれずに通り抜けられる状態」のことです。

人の声は、低い音では声帯が厚く振動する地声、高い音では声帯が薄く引き伸ばされて振動する裏声に分かれます。この2つが入れ替わる境目を換声点(かんせいてん)と呼びます。多くの人は、換声点で声が一瞬途切れたり、急に音色が変わったりします。その段差が目立たなくなり、低音から高音まで一本の声のように聞こえるのがミックスボイスです。

どんな声かを言葉にすると、次の3つが同時に成り立っている声です。

  • 高い音でも、地声のような芯や密度が残っている
  • 裏声のような軽さがあり、喉に力が入っていない
  • 音の高さが変わっても、音色が急に切り替わらない

つまり、地声を力ずくで引っ張り上げた声でも、裏声をただ大きくした声でもありません。

男性ボーカルのJ-POPを過去52年・1,560曲で分析した2023年の研究(情報処理学会論文誌)では、メロディの音高が上がるにつれて、ミックスボイスなどで歌われる曲が増えたと報告されています。高い音が当たり前になった曲を歌うために、この発声が注目されてきた背景がうかがえます。

ミックスボイスの仕組み|「半々で混ぜる」という説明が誤解を生む理由

ミックスボイスは「地声と裏声を混ぜた声」と説明され、「地声7・裏声3」のように比率で語られることもあります。混ざり方をイメージするたとえとしては役に立ちますが、そのまま受け取ると誤解が2つ生まれます。

誤解1:地声と裏声を同時に鳴らして、音量のバランスを取っていると思う。 声帯は1組しかなく、2つの声を重ねて出しているわけではありません。1組の声帯の使い方そのものを変えています。

誤解2:「混ぜる量」を決めれば出ると思う。 声帯の中に「地声の成分」「裏声の成分」という別々の材料があり、それを量って足しているわけではありません。実際には、声帯の使い方を決める2つの働きの釣り合いが、音の高さに応じて少しずつ移っていきます。

その2つの働きとは、次のとおりです。

  • 声帯の本体を縮めて、厚く振動させる働き(甲状披裂筋)。地声で中心になるとされます
  • 声帯を前後に引き伸ばして、薄くする働き(輪状甲状筋)。裏声で中心になるとされます

音声研究では、地声や裏声といった声の種類(声区)の違いは、この2つの働きの差から生まれると説明されてきました。ミックスボイスは、両方が働いたまま、音が上がるほど「引き伸ばす働き」の比重が徐々に増えていく状態、と説明されます。声帯の合わさり方は地声と裏声の2種類だけに分かれるのではなく、その間が連続していることも指摘されています。

音響研究にも、同じ見方を裏づける報告があります。地声と裏声を見分ける識別器にミックスボイスを入力すると、判定の確率が地声と裏声の中間的な値になったという2023年の研究(東京大学)です。ミックスボイスが、地声らしさと裏声らしさの中間に位置する声として数値に表れた、ということです。

もうひとつ、2014年に米国音響学会誌に掲載された論文(Titze)は、混ざった状態を安定して保つことを、喉の筋肉の働きと声道の圧力を協調させる「バランス取り」だと述べています。しかも、声門にかかる圧力を大きくしてもこの状態は作りやすくならず、地声と裏声の二極に分かれる傾向をかえって強めると報告されています。高音を息の勢いで押すほど崩れやすい、という経験則とも重なります。

だから、「混ぜる」より「つなぐ」「バランスを移していく」と捉えるほうが実態に近く、練習の方向を間違えにくくなります。新しい声を足すのではなく、すでに持っている地声と裏声の間を埋めていく作業です。

ミックスボイス・ミドルボイス・ヘッドボイスの呼び方がずれる理由

3つの語は、同じ声を指すこともあれば、別の声を指すこともあります。声区の数え方や名前に統一された定義がなく、解説する人ごとに指す範囲が違うからです。英語圏の解説でも、声区の数え方には一致した見解がないとされています。

よく見かける使い分けは、次の4つです。

  • ミックスボイス=ミドルボイスとして、同じ意味で使う。 地声と裏声の中間の声、という捉え方です
  • ミドルボイスは音域、ミックスボイスは発声法として分ける。 換声点と換声点の間の音域の声をミドルボイス、低音から高音まで裏返らないように出す発声法をミックスボイス、と分ける解説もあります
  • ヘッドボイスをミックスに含めるかが違う。 ミドルボイスやヘッドボイスを「地声と裏声の中間にあたるミックスボイス」とする立場と、ヘッドボイスを息漏れの少ない裏声の一種として別に扱う立場があります。後者の見方はヘッドボイスとは?ファルセット(裏声)との違いで整理しています
  • 地声寄り・裏声寄りで呼び分ける。 力強い側を地声ミックス、軽やかな側を裏声ミックスと呼びます。配分の考え方は地声ミックスと裏声ミックスの違いにまとめています

ネット上では「天然ミックス」という呼び方も見かけます。練習をしなくても最初から地声と裏声が自然につながって聞こえる人を指して使われることが多いようですが、これも定義が定まった用語ではありません。

名前の違いで迷ったときは、呼び名ではなく「何が起きているか」で確かめます。段差があるか、喉に力みがあるか、息が漏れていないか。この3点が同じなら、呼び名が違っても同じ声の話をしている可能性が高いと考えてください。

3つの声区を並べて見比べたい方は、ヘッドボイス・チェストボイス・ミドルボイスの違い【比較表】が役に立ちます。

本物のミックスボイスかを耳で見分ける4つの手がかり

見分けの手がかりは「段差」「喉の力み」「音量を変えたときの崩れ方」「息の混じり方」の4つです。どれも目安なので、ひとつだけで決めず、重ねて判断してください。

1. 音を上げていく途中に段差があるか。 低い音から高い音へ、サイレンのようになめらかに上がってみます。途中で音色が急に変わる、一瞬途切れる、スカッと軽くなる場所があれば、そこが換声点で、まだつながっていません。段差に気づかないほどなめらかに細くなっていくなら、つながっているサインです。

なお、声門の形をなだらかに変えても、声門内の圧力は急に変わることがあると報告されています。切り替わりはもともと起きやすいものなので、段差があるのは気合い不足ではありません。

2. 高くなるほど、首や喉に力が入っていないか。 喉仏のまわりや首筋が固くなる、息が詰まる、声が硬く叫ぶような音になる。この場合は、地声の厚みを保ったまま引っ張り上げる「張り上げ」に近づいています。ミックスボイスは、地声を強く張り上げずに無理なく高い音を出す方向の発声と説明されます。つながっているように聞こえても力みが強いなら、別の発声の可能性があります。

3. 同じ高さで、音量を少し上げ下げしても崩れないか。 安定して出せる高めの一音で、小さく出してから少しだけ大きくしてみます。音色を保ったまま変えられるなら、つながった状態で支えられている目安になります。大きくした瞬間に裏返る・かすれるなら弱い裏声寄り、喉が締まって叫びになるなら張り上げ寄りと考えられます。

4. 息の音が目立たないか。 高い音で「ハー」という息の音が声に混じっているなら、声帯が閉じきっていない裏声寄りの可能性があります。ミックスボイスは、声帯をうまく閉じて、できるだけ少ない息で効率よく出す声と説明されます。ただし、息混じりの声は表現として意図的に使われることもあるので、息が混じること自体が間違いとは限りません。

試すときに喉の痛みや違和感が出たら、すぐにやめてください。痛みや声のかすれが続くなら、無理をせず耳鼻咽喉科などの専門医に相談してください。

ミックスボイスと張り上げ・裏返り・弱い裏声の聴き分け方

高い音が「出ているように聞こえる」声には、つながった声のほかに3種類あります。聞こえ方が似ていても、原因と直し方が逆になります。

張り上げ(地声を引っ張り上げた声)。 高くなるほど音が硬く鋭くなり、喉が詰まります。音量は出ますが、苦しさがあります。直す方向は「足す」ではなく「抜く」で、高音で喉が締まる・張り上げる原因が入口になります。

裏返り。 ある高さまでは地声のまま進み、そこで急に裏声へ移ります。段差がはっきり聞こえるタイプで、力みよりも換声点の通り方が課題です。段差が生まれるしくみは地声から裏声で裏返るのはなぜ?で整理しています。

弱い裏声・息っぽい声。 段差はなくても、息の音が多く、芯がなくて通りません。声帯が閉じきっていない状態で、直す方向は「閉じる」ことです。声が息っぽい・弱い・通らない原因で扱っています。

つながった声。 段差がなく、芯と軽さが両方残っています。低い音から高い音まで動いても、声の太さが急に変わりません。

男性の声のお手本です。低い音から高い音へ進んでも、声の太さが急に変わらない点に注目して聴いてみてください。

同じ「ミックスボイスが出ない」でも、力みが強ければ張り上げ、段差があれば裏返り、息が多ければ弱い裏声と、どれに当たるかで取り組む順番がまるで変わります。つまずき方の切り分けはミックスボイスが一生できない?原因は才能ではなく「順番」にまとめています。

ミックスボイスと他の高音発声を歌い比べで聴く

息の混じり方、音色の硬さ、音が切り替わる瞬間の段差の3点に耳を向けて、発声ごとの違いを聴き比べてみてください。

ミックスボイスかどうかは、自分の耳だけでは決めにくい

自分の声がつながっているかを、自分の耳だけで判定するのは簡単ではありません。歌っている本人には、頭の骨を伝わる振動も混ざって聞こえるため、外に出ている音とは違って聞こえるからです。「つながっているつもり」で段差が残っていたり、「力んでいないつもり」で押していたりすることは珍しくありません。

録音して聴き返せば、段差や息の音はかなり見えてきます。手順は録音のやり方と、聴き返すときの4つのチェックポイントにまとめました。ただ、録音を聴いても「これは裏返りなのか、息っぽさなのか」の判断がつかない、という壁は残ります。

そこで役に立つのが、声を症状のタイプに分けて考える見方です。声のクセは大きく、張り上げ・裏返り・息っぽい・つながった声の4つに分けられます。今の自分がどこに近いかは、あなたの声のクセはどのタイプ?4つの症状と直し方【セルフ診断】で確かめられます。

ボイトレアプリボイとれ!も、録音した自分の声をお手本と聴き比べて4つの症状タイプから近いものを選ぶと、タイプごとに「張り上げをやめる」「声の裏返りをなくす」「息漏れに芯を出す」「つながった声を伸ばす」といったレッスンへ進める作りになっています。自分の耳だけで迷い続けるより、外から見た手がかりをひとつ持つほうが、遠回りは減ります。

ミックスボイスは「半々で混ぜる声」ではなく、声帯の使い方を連続的に移していく状態です。名前に振り回されず、段差・力み・息の3点で今の声を確かめるところから始めてみてください。

#ミックスボイス#ミックスボイスとは#ミドルボイス#換声点#声区#地声と裏声#張り上げ#発声のしくみ

関連する記事

裏声が出ない原因は5つの型で別物|かすれる・息しか出ない・カラオケでだけ出ないを30秒で切り分ける
ミックスボイス・高音

裏声が出ない原因は5つの型で別物|かすれる・息しか出ない・カラオケでだけ出ないを30秒で切り分ける

裏声が出ない原因は1つではなく、「どう出ないか」で5つの型に分かれます。地声のまま切り替わらない、息しか出ない・かすれる、高い裏声か低い裏声だけ出ない、家では出るのにカラオケだと出ない、逆に裏声しか出ない。小さな「ホー」を2つの高さで出す30秒テストで自分の型を切り分け、型ごとに「いま起きていること」と「最初にやる1つ」、次に進む練習を案内します。男性や声変わりの時期に裏声が出にくい理由も整理しました。

ボイとれ!編集部ボイとれ!編集部
mid2Gとはどの高さ?mid2Aより高い「ソ」の位置と、出ない・きつい人の3つの止まり方【最高音mid2Gの曲つき】
ミックスボイス・高音

mid2Gとはどの高さ?mid2Aより高い「ソ」の位置と、出ない・きつい人の3つの止まり方【最高音mid2Gの曲つき】

mid2Gは国際式でG4、ピアノの中央のドから白鍵を4つ右へ進んだ「ソ」の音です(約392Hz)。男性にとっては地声で届くかどうかの境目、女性にとっては地声で歌うメロディの通り道にあたります。mid2Aより高い理由、hiAとの差、「最高音」と「地声最高音」の読み分け、出ない・きついときにミ→ファ→ソの3音で止まり方を見分ける手順、地声最高音がmid2G・mid2G#の曲8つを曲別の音域記事へのリンクつきで紹介します。

ボイとれ!編集部ボイとれ!編集部
稲葉浩志の歌い方の特徴|ミックスボイス・ヒーカップのしくみと「歌い方が変わった」の聴き比べ方
ミックスボイス・高音

稲葉浩志の歌い方の特徴|ミックスボイス・ヒーカップのしくみと「歌い方が変わった」の聴き比べ方

稲葉浩志(B'z)の歌い方の特徴は、高音でも裏声に逃げないミックスボイス寄りの発声と、語尾を跳ね上げるヒーカップ。「ultra soul」はAメロの低音を押さないことがサビの高音を決めます。公式映像で「歌い方が変わった」を聴き比べる3つのポイントと、キーを下げて張り上げずに近づく練習手順を、お手本音源つきで解説します。

ボイとれ!編集部ボイとれ!編集部