桑田佳祐の歌い方の特徴|英語風の子音・ハスキーボイス・ノリのしくみ
桑田佳祐の歌い方が「独特」と言われる理由は、子音を英語のように立てて母音を崩す発音、地声主体のざらついたハスキーボイス、言葉を拍に詰め込んでビートに乗せるノリの3つが重なっているからです。「勝手にシンドバッド」の10音フレーズ、公式MVで聴く「波乗りジョニー」「白い恋人達」の聴きどころ、歌い方は変わったのかという疑問、喉を痛めずに真似する順番(リズム→子音→声色)までを解説します。

桑田佳祐さんの歌い方が「独特」と言われる理由は、子音を英語のように強く立てて母音を崩す発音、地声を主体にしたざらついたハスキーボイス、言葉を拍に詰め込んでビートに乗せるノリ(グルーヴ)の3つが同時に鳴っているからです。
感覚的な「クセ」に見えますが、発音・発声・リズムの用語に置き換えると、聴き分けることも、喉に無理のない範囲で近づくこともできます。
ただし、こうした歌い回しは、歌っている本人には再現できているかどうかが分かりません。録音を聴き返しても「何となく違う」で止まりやすいところです。この記事では3つの要素を別々に切り出したうえで、最後に自分の声のクセを症状別に見極めて直す方法までつなげます。
桑田佳祐の歌い方が「独特」に聞こえる理由を3つの技術に分ける
「独特」の中身は、発音・声質・リズムという別々の層に分けられます。1つずつ聴く場所を決めると、同じ曲でも聞こえ方が変わります。
| 耳に残る特徴 | 技術としての呼び方 | 聴くときの手がかり |
|---|---|---|
| 日本語なのに英語のように聞こえる | 子音のアタックを強め、母音を短く崩す発音 | カ行・タ行の頭に息の音が混じるか |
| ガラガラとしたしゃがれ声 | 地声主体のハスキーボイス | 低い音でざらつき、高い音で澄むか |
| 言葉が多いのに転がるように進む | 譜割りとシンコペーション | 言葉の頭が拍のどこに置かれているか |
なお、声区(地声と裏声の区分)の比率や喉の中の細かな動きは、外から確かめられるものではありません。ここでは、音楽評論やボーカル分析で繰り返し指摘されている範囲に絞って整理します。
子音を英語のように立てる発音|カ行・タ行の崩し方
「英語っぽく聞こえる」正体としてまず挙げられるのが、カ行・タ行の子音を英語のように強く発音する歌い方です。音楽評論では、「カ」を「クァ」、「タ」を「ツァ」に寄せるような崩し方が例として挙げられています。
子音とは、舌や唇で息の通り道をいったんふさいだり狭めたりして作る音のことで、言葉の頭の「カッ」「タッ」という立ち上がり(アタック)にあたります。
日本語は子音と母音がほぼ同じ重さで並ぶので、平らに聞こえやすい言語です。一方、英語は強く読む音の子音のあとに、息が勢いよく漏れます。この息の成分が「ク」「ツ」のように聞こえる、と捉えると分かりやすいでしょう。
これに加えて、1つの音に複数の言葉を詰め込んで母音をはっきり発音しない歌い方、日本語の歌詞に英語を混ぜる書き方、日本語の音の並びを英単語のように聞かせる言葉遊びが組み合わされている、と分析されています。早口で巻き舌のしゃがれ声、と紹介されることもあります。巻き舌を表現として使い分ける例は椎名林檎の歌い方でも取り上げています。
「滑舌が悪い」のではなく、崩し方は選ばれている
この発音は、うまく言えていないのではなく、意図して作られた手法と評価されています。
サザンオールスターズがデビューした1978年当時は「日本語でロックは歌えない」という考えが根強く、英語的に崩す発音は、その固定観念を覆した手法として語られてきました。早口の歌が聞き取りにくいという声が、歌番組で歌詞を字幕表示するきっかけになった、とも言われています。
その一方で、中期以降は日本語を大切に歌いたいという考えから、明解な日本語を丁寧に歌う曲も増え、曲によって発音を使い分けていると伝えられています。
ほかの歌手の曲を歌い継ぐライブ企画「ひとり紅白歌合戦」でも、歌い回しを原曲に寄せる曲と、あえて変える曲を使い分けていると評されました。崩すかどうかを選べるのは、崩さない発音が正確にできるからです。
ハスキーな声質のしくみ|地声で押す低中音域と、裏声に抜ける高音
声質は「しゃがれ声」「ダミ声」「ガラガラ型のハスキーボイス」と形容されます。ボーカル分析では、低〜中音域を話し声に近い地声で押し出し、そこに息とざらついた成分が混じる、と説明されています。高い音では裏声に切り替える曲もあり、ざらついた地声と澄んだ裏声の落差が表情の幅になっている、という見方です。
ハスキーな質感は一般に、声帯(喉にある2枚のひだ)を閉じきらず、わずかに息を混ぜることで生まれます。息の混ぜ方を調整する基本はハスキーボイスの出し方で解説しています。
洋楽の発音やビートだけでなく、歌謡曲的にうねるメロディの運びが土台にある、という指摘もあります。本人もインタビューで、テレビの歌謡曲で育ったことが自分の土台になったと語っており、前川清さんが在籍した内山田洋とクール・ファイブの曲をカバーしたこともあります。音を細かく上下させる節回しのしくみはこぶしの歌い方が参考になります。
なお、ざらついた声を、喉を傷めて作ろうとするのは避けてください。傷めて得たかすれは、狙った場面だけ出し入れすることができないからです。
日本語をビートに乗せるノリ|「勝手にシンドバッド」の10音フレーズ
言葉数が多いのに重たく聞こえないのは、言葉を拍の細かい区切りに割り当てる「譜割り」が緻密に組まれているため、と説明できます。拍の裏から入って次の拍をまたぐ「シンコペーション」を多用しているとも言われ、音楽評論家からは、日本語をどうビートに乗せてグルーヴさせるかという点で画期的だった、と評されています。
サザンオールスターズのデビューシングル「勝手にシンドバッド」(1978年6月25日発売)は、ラテン色のあるロックを土台にした踊れる曲と紹介されています。
歌詞の分析では、地名から始まる出だしのフレーズと、1番を締めくくるフレーズが、どちらも数えると10音で、音の響きも近いと指摘されています。早口で勢いまかせに聞こえる歌でも、言葉は「10音をこの長さに収める」という枠に沿って置かれている、ということです。
聴くときは、歌詞を見ながら出だしのフレーズを指で1音ずつ数え、10音が何拍に収まっているかを確かめてみてください。言葉の頭が拍の真上に来ているのか、拍の少し前から食い込んでいるのかを聴き分けられると、「ノリ」の正体が見えてきます。拍の裏を体で感じる練習そのものは裏拍の取り方にまとめています。
ソロ曲「波乗りジョニー」(2001年)で言葉が拍に乗る感覚を耳で確かめる
2拍目と4拍目に手拍子を打ちながら、言葉の頭の子音が手拍子より前に出るのか、重なるのかを追ってみてください。
桑田佳祐の歌い方は変わった?聴き比べて分かるのは発音の使い分け
聴き比べて確かめやすい変化は、声そのものよりも「言葉をどこまで崩すか」の使い分けです。デビュー当時は早口と英語的な崩しが前面に出ていましたが、1979年3月発売の3枚目のシングル「いとしのエリー」(サザンオールスターズ)は、それまでのにぎやかな印象から一転したバラードでした。
本人も音楽評論家によるインタビューで、昔は歌詞の意味よりも言葉の“響き”があればサウンドになると考えていた、と振り返っています。前の章で触れたとおり、その後は明解な日本語を丁寧に歌う曲も増えました。響きを優先する方向から、日本語の言葉の形を生かす方向へ、重心が移ってきたと読み取れます。
「変わった」と感じたら、条件の近い曲どうしで比べるのがおすすめです。たとえば、どちらも2001年に発売されたソロ曲「波乗りジョニー」と「白い恋人達」は、夏のアップテンポと冬のバラードという対照的な2曲なので、年代の差を除いて発音の使い分けだけを比べられます。
なお、声色の変化を年齢や体調と結びつける話は、外から確かめようがないため、ここでは扱いません。
「白い恋人達」は、音域分析では低いD3付近から高いB4付近までと幅が広く、地声で届く高さの上に裏声の音が置かれている、と整理されています。地声と裏声のつなぎ目をなめらかにする考え方は換声点の段差をなくす練習で解説しています。
ソロ曲「白い恋人達」(2001年)で地声から裏声への切り替えを聴く
高い音に上がる箇所で声色がざらついたままなのか、澄んだ響きに変わるのか、そして「波乗りジョニー」と比べて言葉がどのくらいはっきり置かれているかに注目してください。
桑田佳祐の歌い方を真似する・近づくときのコツと注意点
真似するときは「リズム→子音→声色」の順に進めます。声色から入ると、ガラガラさせようとして喉を締めやすく、痛める原因になりやすいからです。崩した歌い方は表現の引き出しの1つなので、強弱やタメを含めた全体像は歌の表現力の付け方もあわせて確認してください。
1. リズム読みで言葉の位置を写す(1フレーズ5回)
歌わずに、原曲に合わせて歌詞を話し声で読みます。音程は気にしなくて構いません。言葉の頭が原曲と同じタイミングで出るまで、1フレーズを5回繰り返します。原曲より速くなったり遅れたりする人は、先にリズム感を鍛える方法で拍にきっちり合わせる練習をしてから戻ってください。
2. 子音だけを強くする(カ・タ・パを各10回)
口の前にティッシュを1枚垂らし、「カ」「タ」「パ」と言ったときにティッシュが揺れるくらい、息を先に飛ばします。強くするのは子音だけで、母音は短く軽く置きます。喉に力を入れるのではなく、息のスピードで立てるのがポイントです。
3. 声色は最後に、小さな音量で足す(1回5分まで)
ざらついた質感は、話し声くらいの音量で、息を少し混ぜるところから試します。喉を締めてガラガラ鳴らす、大声で長時間続ける、といった方法は避けてください。痛みや違和感が出たらその日はやめ、続く場合は無理をせず専門医に相談してください。
やりがちなNG例:すべてのフレーズを崩すと、ただ聞き取りにくい歌になります。崩すのは1フレーズに1か所から始めてください。また、音を下からすくい上げる癖がついたまま抜けなくなることがあります。気になる人はしゃくり癖の直し方で整理できます。崩す前の「言葉をまっすぐ置く」見本としては、星野源の歌い方が対照的で参考になります。
カラオケの解説でも、桑田佳祐さんの曲は声マネに寄りやすいので、無理に似せず自分の地声で堂々と歌うほうがよい、と助言されています。近づけるのは声ではなく、拍と子音の置き方からで十分です。
似ているかどうかは、自分の耳では判定しにくい
真似の練習でいちばん難しいのは、できているかどうかを自分で判定することです。歌っている最中の声は骨を伝わって内側から聞こえるため、子音を立てたつもりでも録音では埋もれていたり、息を混ぜたつもりがただ弱い声になっていたりします。
確かめ方はシンプルです。同じ1フレーズを「普通の発音」「子音だけ強く」「崩して」の3通りで録音し、原曲と順番に聴き比べます。聴くポイントは、言葉の頭が拍に対して前か後ろか、子音が聞こえるか、声が細くなっていないかの3点です。聴き返しの手順は自分の歌声を録音して聴き返す方法にまとめています。
真似を続けるうちに出やすいのは、ガラガラさせようとして喉を締める「張り上げ・力み」と、息を混ぜすぎて芯がなくなる「弱い・息っぽい」の2つの症状です。自分がどちらに寄っているかは声のクセ4タイプ診断で切り分けられます。
ボイとれ!には、力みが出るタイプ向けに「張り上げをやめる」、息が漏れるタイプ向けに「息漏れに芯を出す」というレッスンがあり、症状に合った練習から始められます。
一人で続けるか、誰かに見てもらうかで迷う場合は、ボイトレはアプリと教室のどちらが合うかも判断材料になります。
桑田佳祐さんの歌い方は、崩しているようでいて、拍と子音の置き方が細かく設計されています。まずは1フレーズ、リズム読みから写してみてください。



