tuki.の歌い方の特徴|ウィスパー寄りの発声と共鳴・語尾の処理、真似できる部分とできない部分
tuki.さんの歌い方の特徴は、息を多く混ぜたウィスパー寄りの声質でありながら芯が消えていないこと。共鳴の位置・語尾の処理・細かい揺れ・高音で押し上げない発声まで5つに分解し、骨格由来で真似できない部分と練習で近づける部分を分けて解説します。

tuki.(ツキ)さんの歌い方の特徴は、ウィスパー寄りの息を混ぜた声質でありながら、芯が消えていないことです。
ただ息を漏らして囁いているのではなく、声帯を軽く合わせたまま息の量だけを増やしている——だから小さい音量でも音程が痩せず、言葉が届きます。
加えて、響きを胸や喉ではなく口の前〜頭のほうに軽く置く共鳴の使い方、語尾を切らずに息をのせて消す処理、そして細かく震わせる揺らし方、さらに高い音で押し上げない発声。この5つが「tuki.らしさ」の中身です。
この記事は人(tuki.さん)の発声技術を分解するものです。「晩餐歌」という曲そのもののキー・最高音・カラオケでの下げ幅を知りたい方は、晩餐歌(tuki.)の音域のほうが目的に合っています。
音域の記事が「その曲を歌いきるための地図」なら、この記事は「その声に近づくための発声の分解」です。
tuki.さんはどんなシンガーか
tuki.さんは、13歳ごろからTikTokを中心に弾き語りの動画を投稿していたシンガーソングライターです。2023年に発表した「晩餐歌」が広く聴かれ、2024年1月にBillboard JAPANのチャートで1位を獲得。ソロアーティストとして史上最年少でストリーミング累計1億回を突破した、と報じられています。2025年のMusic Awards Japanでは最優秀ニュー・アーティストを受賞しました(受賞歴はtuki.公式サイトに記載があります)。
歌唱を語るうえで押さえておきたいのは、専門的なボイストレーニングを長年積んだ経歴が公表されているタイプの歌手ではないという点です(音楽的には13歳前後からギターを始めたという経歴が語られています)。
つまり後述する特徴の一部は「訓練で獲得した技術」というより、もともとの声質と、弾き語りで自然に身についた歌い方が大きく効いている可能性があります。ここは真似するときの分かれ目になるので、後半で詳しく扱います。
「サクラキミワタシ」のMVで声の質感を聴く
上は「サクラキミワタシ」のMVです。低い音域を歌っている場面で、音量が小さいのに言葉の輪郭が消えていない点に注目して聴いてみてください。息の多さと芯の残り方が同居しているのが分かります。
特徴1:息を多く混ぜているのに、声の芯が消えていない
tuki.さんの歌声は「囁くよう」と感じる人が多く、実際に息を多めに含んだウィスパー寄りの発声に聞こえます。ただし重要なのは、息を混ぜた結果として声が弱くなっていないことです。息を吐きすぎず、かといって出し惜しみもしない、その中間を探るバランスが要点だと考えられます。
しくみとしてはこうです。声帯を完全に閉じきると、息漏れのないハッキリした声になります。逆に大きく開けたままだと、ただの吐息になって音になりません。ウィスパーボイスは「軽く合わせたまま、通す息だけを増やす」という中間の状態です。閉じを手放してしまうと、聞こえない弱い声になるだけで、tuki.さんの声にはなりません。
この「芯を残したまま息を混ぜる」感覚そのものを練習したい方は、ウィスパーボイスとは?出し方のコツ|息だけ漏らす声との決定的な違いに手順があります。
逆に、息を混ぜたつもりが芯まで抜けてしまう人は順番が逆で、先に閉じる側を作る必要があります。声が息っぽい・弱い・通らない原因は「息漏れ」|声帯を合わせて芯を出す練習から入ってください。
練習:芯を残したまま息を足す
- まず、ふつうの話し声の高さで「あー」を5秒、息を混ぜずにまっすぐ出します。これが芯100%の状態です。
- 同じ高さ・同じ音量のまま、息だけを少し足して「はー」寄りの音色に5秒。音量は変えないのがポイントです。
- 1と2を交互に、各5秒×5往復。1日1〜2セット、2週間を目安に。
NG例:息を足すときに音量まで落としてしまう。これでは「息っぽい声」ではなく単に「小さい声」になり、録音すると音程が曖昧に聞こえます。音量は保ったまま、質感だけを変えます。
こちらは男性の声によるお手本で、声帯を合わせて芯を出したときの鳴り方です。息を混ぜる練習の前に、この「芯がある」状態がどんな音か耳で確かめておくと、2の段階で芯まで抜けてしまう失敗を避けやすくなります。
特徴2:響きを胸ではなく「前〜上」に置いている
tuki.さんの声を「透明感がある」「少年のようで中性的」と感じさせている要因のひとつが、共鳴の位置です。胸や喉ではなく、口先から頭蓋骨のあたりに軽く共鳴させるイメージで、響きのバランスが前上寄り(上顎の奥から鼻のあたり)に置かれているように聞こえます。
胸に大きく響かせると、太くて重心の低い声になります。逆に前〜上に置くと、軽く明るく、密度の割に「重くない」声になります。tuki.さんの声が小さい音量でも埋もれないのは、音量ではなく響く場所で通りを稼いでいる面が大きいと考えられます。
響きの置き場所を自分で切り替える感覚は、歌の共鳴を鼻腔・口腔・咽頭で使い分ける|響かせる場所で声質はこう変わるで整理しています。鼻をつまむ・指を当てるといった1分でできるセルフチェックがあるので、いま自分がどこに響かせているかを先に確かめると早いです。
注意点:前〜上に寄せようとして、鼻に詰め込むと「鼻声」になります。響きを前に置くことと、鼻腔に音を閉じ込めることは別物です。鼻をつまんで音が極端に変わる(声がほぼ出なくなる)なら鼻腔に寄せすぎのサインなので、口の中の空間を少し広げてバランスを取ります。変わり方が小さい場合は、鼻に抜けすぎていない目安にはなりますが、鼻腔共鳴の量そのものまでは分かりません。
特徴3:語尾を切らず、息にのせて消す
tuki.さんの歌の余韻をつくっているのが、語尾の処理です。語尾を切らずに余韻を残し、語尾に息を少し多めにのせているように聞こえます。フレーズの終わりを子音でパツンと止めるのではなく、音量を落としながら息の側へ渡していく——この受け渡しがあるぶん、静かな曲で「余白」が生まれます。
これは感情表現の話に見えて、実際にはかなり物理的な技術です。息が続いていないと語尾で音が急に落ちますし、支えがないと語尾だけ音程がぶら下がります。フレーズの最後まで息を残しておく設計が前提になります。
練習:語尾を3段階で減衰させる
- 好きなフレーズを1つ選び、語尾の音を4秒伸ばします。最初の2秒は普通の音量、次の1秒で半分、最後の1秒で息だけへ。
- これを5回繰り返し、録音して聴き返します。段差なく減っていれば成功です。
- 慣れたら、減衰の長さを2秒に縮めます。実際の曲ではこのくらいの短い時間で処理することが多いためです。
NG例:語尾を伸ばそうとして息を使い切り、次のフレーズの頭で慌てて吸うことになる。語尾は「余った息で処理するもの」ではなく、最初から取り分けておくものです。息の配分そのものが不安な方は、腹式呼吸で歌う方法|歌が変わる息の使い方と自宅練習で土台を作ってください。
特徴4:細かく震わせる揺らし方
tuki.さんの歌唱は、「大きくゆったり揺れるビブラート」ではなく、細かい震えのようなニュアンスが特徴に聞こえます。長く豊かに揺らして聴かせるタイプではなく、語尾や伸ばすところに細かい揺れがふっと乗る、という質感です。
ここは真似する順番を間違えると危険なところです。細かい震えは、狙って作る場合と、喉の力みで勝手に震えてしまう場合とで、音は似ていても中身がまったく違います。後者はいわゆるちりめんビブラートで、力みの副産物なので直す対象になります。
したがって推奨する順番はこうです。まずまっすぐ伸ばせること(ロングトーンで揺れずに保てる)。次に意図的にゆっくり大きく揺らせること。そのうえで揺れを細かく速くしていく。この順で積むと、力みからくる震えと区別がつきます。手順はビブラートの出し方3ステップ|自然な揺れは「1秒に5〜7回・幅は半音」。喉で震わせるのは間違いにまとまっています。
最初にやること:まっすぐな声で8秒伸ばし、録音して波打っていないか確認する。ここが揺れているなら、揺らす練習ではなく脱力の練習が先です。
特徴5:高いところで押し上げない
サビで音が高くなっても、tuki.さんの声は張り上げた質感になりにくいのが特徴です。高い音域でも、喉の奥の空間を確保したまま上へ持ち上げていくように聞こえます。「もっと大きく」ではなく「息にのせて上へ」という方向です。
静かな曲で高い音を出すのは、実は大声で出すより難しい面があります。音量で押せないぶん、支えと響きだけで音程を保つ必要があるからです。ここで力に頼ると、喉が締まって音色が急に硬くなり、tuki.さんの質感から一番遠いところへ行ってしまいます。
高音で押し上げるクセに心当たりがある方は、高音で喉が締まる・張り上げる原因|「もっと張れば届く」は逆。脱力して高音を出す練習が直接の処方です。
また、tuki.さんは高いところでふっと裏声側へ抜く処理も使うため、その切り替えを段差にしないことも効いてきます。抜き方そのものは裏声の出し方3ステップ|綺麗な裏声は「力で押す」のではなく「ため息を音にする」だけ、地声と裏声の質感の違いの整理はファルセットの出し方とかすれる原因|裏声・ミックスボイスとの違いを参照してください。
男性の声によるお手本ですが、力を抜いたまま高さを移動していくときの息の流れ方が確認できます。高くなるにつれて力を足していないか、自分の発声と比べてみてください。
真似するときの注意点|骨格由来と技術由来を分ける
ここがこの記事で一番お伝えしたい部分です。tuki.さんの歌声には、練習で近づける部分と、近づけない部分の両方があります。
真似できない(追いかけないほうがいい)部分
- 声そのものの高さ・細さ・若さ。声の基本的な高さや音色は、声帯の長さや厚み、共鳴腔の大きさといった身体の作りで決まります。これは訓練で入れ替えられるものではありません。「同じ声色にならない」のは失敗ではなく、当然のことです。
- 年齢に由来する質感。若い声特有の軽さや張りは、そのときの身体の状態と結びついています。真似しようとして無理に細く高く出そうとすると、喉を締める方向に力が入りやすくなります。
真似できる(練習で近づく)部分
- 息の混ぜ具合の調整(特徴1)。これは完全に技術で、誰でも幅を広げられます。
- 響きの置き場所(特徴2)。共鳴のバランスは意識と練習で変えられます。声質の印象がいちばん大きく動くのもここです。
- 語尾の処理(特徴3)。息の配分と減衰のコントロールなので、練習が素直に効きます。
- 高音で押し上げない発声(特徴5)。むしろ喉の健康のためにも身につけたい技術です。
つまり、「tuki.さんの声になる」ことは目標にできませんが、「tuki.さんが使っている技術を自分の声で使う」ことは目標にできます。自分の声質のまま、息の混ぜ方・響きの位置・語尾の処理だけを取り込む。これが現実的で、しかも歌全体が上手くなる方向と一致します。
特に気をつけたい2つの失敗
失敗1:声を細くして「それっぽく」しようとする。喉を締めて細い音を作ると、一瞬似て聞こえることがありますが、音程が不安定になり、長く歌えず、喉を痛めます。
ウィスパー寄りの質感は「細くする」ではなく「息を足す」で作ります。締まりのクセがある方は歌うと喉に力が入る人へ|喉締めの原因と力を抜く直し方を先に通してください。
失敗2:小さい音量=上手い、と誤解する。静かに歌うのは、大きく歌うより簡単ではありません。音量が下がると音程のズレや声の痩せがそのまま露出します。静かに歌うには、音量を落としても崩れない支えが必要です。
声量そのものが不安な方は、いったん声量を上げる方法3つ|「もっと大きな声で」と喉に力を入れるのは逆効果ですで土台を上げてから絞るほうが早道です。
練習の順番|4週間の目安
一度に全部やろうとすると、どれも中途半端になります。次の順で1つずつ積むのがおすすめです。
- 1週目:芯の確認。まっすぐな声で8秒のロングトーンを1日5回。録音して揺れ・痩せがないかを見る。ここが崩れているうちは息を混ぜても濁るだけです。
- 2週目:息を足す(特徴1の練習)。音量を保ったまま質感だけを変える往復を1日1〜2セット。
- 3週目:響きの位置(特徴2)。ハミングで前〜上に置く感覚を作り、そのまま母音に開く。鼻声になっていないかを鼻つまみでチェック。
- 4週目:語尾の処理(特徴3の練習)。ここまでの3つが乗った状態で語尾の減衰をつける。
各週とも1日10〜15分で十分です。時間より、毎回録音して前回と比べることのほうが効きます。
似た方向の歌手と比べると輪郭がはっきりする
同じ「息を混ぜた繊細な発声」でも、歌手ごとに配合は違います。比較して聴くと、自分がどの質感を目指しているのかがはっきりします。
- 幾田りらの歌い方の特徴|透明感のある声の出し方とウィスパー寄り発声のしくみ … ウィスパー寄り+前寄りの共鳴という土台が近く、ピッチの正確さの作り方まで踏み込んでいます。tuki.さんの声が好きな方はこちらも参考になります。
- ヨルシカ(suis)の歌い方と声質の特徴|ミックスボイスと息の使い方 … 声帯の閉鎖を浅く保ったまま息を切らさない、という点が共通します。
- Uruの歌い方の特徴|息を混ぜた繊細なファルセットのしくみ … 息っぽさと芯のバランスを、裏声側でどう取るかの参考になります。
自分の声のクセは、自分では聞こえていません
ここまでの練習には、すべて「録音して確かめる」が入っていました。理由があります。歌っているとき、私たちは自分の骨を伝わってくる音を混ぜて聞いているため、実際に外へ出ている声とはかなり違うものを聞いています。「息を混ぜているつもり」が録音では芯まで抜けている、「まっすぐ伸ばしているつもり」が波打っている——これは珍しいことではなく、ほぼ全員に起きます。
だから最初の一歩は、tuki.さんの真似ではなく、自分の現在地を知ることです。録音のやり方と聴き返すときの着眼点は自分の歌声を録音すると気持ち悪いのはなぜ?録音のやり方と、聴き返すときの4つのチェックポイントにまとめています。
そのうえで、「息を足すべきなのか、それとも先に芯を作るべきなのか」という順番の判断が要ります。ここを間違えると、息っぽい声の人がさらに息を足して埋もれる、といったことが起きます。
自分の録音をお手本と聴き比べて声のタイプを選び、いま取り組む練習を決める方法はボイとれ!徹底ガイドで解説しています。お手本と並べて聴きながら、自分の弱点に合わせた練習を組めます。
まずは、自分の声が4つのうちどのクセに当てはまるのかを確かめるところから始めてみてください。あなたの声のクセはどのタイプ?4つの症状と直し方【セルフ診断】で、tuki.さんの発声に近づくためにあなたが最初にやるべき1つが見えてきます。
参考にした主な情報源:tuki.公式サイト、Wikipedia「Tuki (singer)」。経歴はこれらに基づきます。歌唱の特徴に関する記述は、音源を聴いたうえでの当編集部の解説で、聞こえ方には個人差があります。



